第32話 最終話
その日の夜、いつも通りソフィアはノアの部屋で寝るまでの時間を過ごしていた。
「今日は街へ連れて行っていただいてありがとうございました」
「なんてことないよ。ソフィアのおかげで体調が良くなって、自分の思うように魔法が使えるようになったんだ。ソフィアのためだったらいつでも転移魔法くらい使うよ」
ソフィアはそんなに簡単に高位魔法を使ってはいけないのではないかと思ったが、素直にお礼を言うことにした。
「ありがとうございます。これからは時々お店に行きたいと思うので、その時はお願いします」
「掃除もしないといけないしね。僕が魔法を使って綺麗にしてもいいよ」
ソフィアはそれはとても楽でいいなと思ったが、首を横に振る。
「いえ、自分の手で磨き、綺麗にすることに意味があるのですよ」
やる気に満ちた表情にノアはソフィアらしいなと思った。
「そうだね。じゃあ僕も手伝うよ」
「結構大変ですよ? ノア様お掃除したことはありますか?」
実際ノアは立場的なことと、体調のこともありちゃんとした掃除をしたことがない。
「いや……でも、頑張るよ……」
ノアの予想通りの反応にソフィアはふっと笑う。
「それにしても、ノア様は本当にたくさんの魔法を使えますね」
「ソフィアに言われた通りになったね。自分でもここまでできるとはあの時は思っていなかったよ」
以前ソフィアは、ルイスに魔法オタクと言われたノアは、呪いが解ければどんな魔法も使えるようになるだろうと言ったことがあった。
「光属性の魔力は人を癒すことはできますが、他の魔法を使うには適していませんからね。日常生活で役に立つのは一般魔法だと思います」
「それでも、人の命を救うことのできるその力はかけがえのないものだよ」
ノアはソフィアの頭を優しく撫でる。
「はい。私は自分が持つこの魔力に誇りを持っています。そしてそう思わせてくれたのはノア様ですよ」
ソフィアはノアの肩にそっと頭を乗せた。ノアはそのままソフィアを優しく抱きしめるとソフィアもノアの背中に手を回す。
しばらく抱きしめあった後、ノアはゆっくり体を離すと少し俯き挙動不審に目を泳がせていた。
「ノア様? どうかされましたか?」
「うん、えっと……あのね……」
明らかに様子のおかしいノアにソフィアはだんだん不安になってきた。
「ノア様、体調が良くないのですか?」
「いや、違うんだ……あの、ね……お願いがあるんだけど……」
ノアはソフィアの顔を伺うように目を合わせたる。
「はい、何でしょう?」
「ソフィア、僕たち夫婦になってしばらく経つよね。だから、その……そろそろ……寝室を一緒にしない?」
ノアは顔を赤くしてソフィアをじっと見ていた。
「えっと……一緒に寝る、と言うことでしょうか?」
「だめ、かな?」
ソフィアは予想していなかったノアのお願いに戸惑ったが直ぐに顔を緩める。
「だめなんかではありません。嬉しいです」
緊張しているようだったノアの手をそっと握り、ソフィアの返事に安心したノアは肩を撫で下ろし、もう一度ぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう!」
ノアとソフィアは腰掛けていたベッドに一緒に横になった。
だが、少し離れて仰向けに寝転んだ二人は初めての状況にお互いどうすればいいかわからない。
ノアがシーツの中でさりげなくソフィアの手を握るとソフィアは一瞬ドキリとしたが、二人は何も話さずそのままいつの間にか眠りについていた。
次の日の朝、ソフィアが目を覚ますと目の前にはノアの胸元があり、腕の中に優しく包み込まれていた。少しはだけたノアの胸元は見慣れたものではあるが、その温もりに包まれ今までにない幸せな目覚めだった。
初めてノアの体を見た時は禍々しいアザに蝕まれていたのが、今ではすっかり消えさりノア本来の滑らかで麗しい肌が色気を放っている。
ソフィアはそっとノアの胸元に手を触れ、ゆっくりと鎖骨までなぞると自身の頬を擦り寄せた。
「温かい……」
「……ソフィア、もう勘弁して」
「ノ、ノア様起きていらっしゃったのですか?!」
ノアが起きているとは思っていなかったソフィアは自分の行動が急に恥ずかしくなった。
「こんな可愛いことされて寝てなんていられないよ」
「すみません……」
「いや、いいんだよ」
ノアは恥ずかしそうに頬を赤らめるソフィアをぎゅっと抱きしめる。
「ソフィアは今日もお休みだよね? 僕も休みなんだ。天気も良いし丘に登らない?」
「良いですね! 行きましょう」
最近よく散歩がてら丘へ登るようになっていた。
二人は朝食を食べ終えるとそのまま屋敷を出て丘へ登った。
「いつ来てものどかでいいところですね」
「うん。ソフィアとこうして過ごす時間がとても幸せだよ」
ノアはソフィアと本当の夫婦になってから一度もアザは現れていない。
本当の幸せを手に入れ、ノアの母親からかけられた呪いは解けたのだった。
「私も今とても幸せです」
ソフィアはノアの顔を見上げ、微笑む。
丘の上には穏やかに風がそよぎ、ソフィアの髪をなびかせた。ノアは少し乱れたソフィアの髪を優しく耳にかけると頬を包み込むように手を触れる。
「ソフィア、愛してるよ」
「私も、ノア様のことを愛しています」
見つめ合った二人はゆっくりと目を閉じ、そっと口付けを交わした。
呪われた王子と偽りの魔女 藤 ゆみ子 @ban77
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