ロボ魂!
マキシマム
第1話 運命の出会い
アシストボーン(Assist Born)。それは日本企業が世界に向けて提唱した、初のアシストスーツの名称である。
通称〝AB〟の愛称で呼ばれるスーツは、利便性、機動力、応用力の高さから世間の評判は『日常生活から戦争まで』と言われるぐらいまで優れた性能を発揮していた。
『技術大国日本、再び君臨す』を合言葉に、円安経済でくすぶっていた日本企業が、一念発起して創りあげた画期的な技術であった。
日本経済は、このABを主軸とした輸出と国内販売で、莫大な利益を叩き出し、かつての不景気を忘れさせるほど再発展し、成長の一途を辿っている。
今では日本主導で新たなAIを製作し、また世界からリードする可能性に期待が寄せられる…とのことだが。
「…景気は良くなってるはずなのに、地方はまだまだこれからですよ…っと。」
地方に住んでる俺にはまだまだ夢物語なのである。
俺は学校から帰って早々、読んでいた新聞をやめて軽くたたみ、机の端に「ぽんっ」と音を立てて置き、日課の目的地に向かって散歩に出かけた。
日本の景気は良くなっただろうが、だからと言って全ての家庭が豊かになるわけではない。…とくに地方。田舎はそうさ。
我が家は俺を含め4人で住んでいる。親父とじいちゃんばあちゃんの4人。母親は…俺が幼稚園児の時に亡くなった。職場の事故で亡くなったと聞いている。
でもそれ以上に、同居しているばあちゃんの介護が大変のなんのって…
難病らしく、医療介護用ABを利用したかったが、できなかった。
というのも、ABは設備が整った環境でこそ、その真価を発揮するんだが…。家の周りが田んぼで、移動は徒歩なんて、ハッキリ言って自殺行為だ。ウォーキングが趣味の人はいいかもしれないが、最寄りの大きい駅に行くまで、歩いてゆうに一時間はかかる。都会は徒歩圏内に色々充実してるって聞くけど、都市伝説なんじゃないか?と思ったり。
そんなとこに住んでいるから、当然家の周辺にABの関連施設なんてあるハズもなく…。
いや、あるにはあるけど、これもまた車での移動じゃないと手間も暇もかかる。やってらんないよマジで…。
なので、残念ながら我が家ではABが使えず…昔よろしく自力で介護をしている。
まぁ、ばあちゃん本人も病気になりたくてなった訳じゃないから可哀想だと思うけど、小さい頃から介護をしてきた俺は、俗にいう〝ヤングケアラー〟というやつらしい。
〝ヤングケアラー〟とは、子供が家族の介護や家事をしなければならない事情で、勉強時間が確保できない、同世代との関係が良好でない状況の人を指す言葉だ。
クラスメイトや近所の人たち、みんな同情はしてくれるけど、介護をするのは俺たち家族だ。特に、遊び盛りの若者は、付き合いの悪いヤツは欲しくないのが相場ってもんだ。
幸いにもいじめられたりはないけど…どうしてもばあちゃんの介護をする以上、遊ぶ時間は限られる。それに介護だけじゃなく家事もするとなると、余計に時間はない。
ばあちゃんの事は嫌いじゃないが、他の家のヤツは親に家事をしてもらって、自分は遊んだり勉強〝だけ〟してるらしい。ハッキリ言うと、うらやましい…。だから、この先のことを思うと……
「はぁ……。」
肩を落とし深いため息をついてしまう。
親父はしがないサラリーマンで、親父の収入とじいばあの年金で賄っている。貧困ではないが、生活していくのでやっとだ。
親父は働きづめで介護する時間がない。それにじいちゃんも歳だから、必然的に俺しか家事と介護を回せる人がいない。
介護サービス使えよ? 使ってこの状況なんだよ。全部タダでやってくれるワケじゃないから、当然出費もかさむ。
だから結局、我が家にABがあったところで、なーんの意味も成さないんだ。
「家にメイドさんでもいてくれたら、ちょっとはラクできるんかねぇ…?」
遠い空にポツリと呟いてみたら、カラスがカァーと返事してくれた。嬉しい…
地元はまぁまぁの田舎で、動物も滅多に現れないような土地だ。だからカラスでもなんでも、レスポンスのある生き物は嬉しい。
…カラスに鳴いてもらったくらいで喜ぶなよ俺ぇ…流石にヤバすぎるぞ。
メイド発言に対しセルフツッコミもなく、黙々と歩き続ける。
いやマジで、手伝ってくれる人が増えるのはどれだけありがたいことなのだろうと考えながら、ようやく目的地に辿りついた。
「さーてーさてさて〜。今日はどんな掘り出し物があるのかな…っと。」
俺は無造作に不法投棄されているジャンク品の山を漁っていた。
ここは週に一度、外部からバカな業者がジャンク品を不法投棄しにくるスポットである。
実は俺のお気に入りで、ここで回収したジャンクを持って帰っては、訳もわからず修理してみたり、修理の出来が良いモノや、比較的美品は誰かに売ったりして日銭稼ぎをしてる。俺にしたら宝の山だ。
多分このあたりに住んでて、こんな素敵なお宝スポットを知ってるのは俺だけだな。うん。いつも荒らされた形跡が俺がやったところばっかだし。
「今日のポンコツ山には何がおわしますかなぁ~?」
俺はこのジャンク品の山を〝ポンコツ山〟と呼んでいる。げんこつ山のたぬきさんじゃなくて、ポンコツ山のジャンクさんは金に化けてくれることもあるからだ。
我ながら良いネーミングセンスだと思う。うんうん。…誰か褒めて。
一人ツッコミをしながら、まだまだポンコツ山の中を掻き分け探していく。
「おっ、このレコーダーまだ使えそうなのに…もったいないなぁ。それにこっちの冷蔵庫…モーター部分だけ欲しいから、今度ドライバー持ってこよう。」
今日の不法投棄は当たりの回だな。状態の良いモノがこんなに多いのは久しぶりだ。
ワクワクしながら独り言を呟き漁っていると、今まで見たことがないシルエットのジャンクを見つけた。
白くて棒状の…しかもなんか人の形をしているような…? 人の形?
上に乗っかっている他のジャンクを片してみると、全身がゾクっと鳥肌が立った。
え…これ人の骨?
ここ、もしかして事故現場なのか!? と焦ってやや取り乱していた俺は、さらにド肝を抜かれることになった。
『…あのー…』
突然人骨が喋り出した!!
とっさの声に驚く俺! え!? 骨ッ⁉︎ 骨がし、しゃべった⁉️⁉️
「うっ、うおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
情けなくも気がついたら絶叫しながら走っていた。こわっ! 骨こわっ‼️
『おぉぉーーいい! 待ってくれよぉーーー‼️‼️』
後ろから声が聞こえる。でもそんなことは関係ない。怖すぎる!
今後ろを見たら終わりな気がする。でも! でもちょっと見てみたい…!
好奇心に負けた俺は、全力で走りながらサッと後ろを見てみると、人骨がオリンピック選手ばりに背筋をピンッと正し、綺麗なフォームで走ってくる。
『ちょ! ちょっと待っておくれよーーー‼ 今チラッって見ただろー!?』
「みっ、見てねぇし! 怖いからこっち来んじゃねぇぇぇぇ!!!」
『イヤホントに! ちょっとだけ! ちょっとだけでいいから!! 先っぽ! 先っぽだけ!ね? 先っぽだけだから!!! タダだから!!!』
「なんの先っぽなんだよ!!」
『話の先っぽだけでいいから! ちょっとオイラの話を聞いておくれよぉぉぉ!!!
ヘブッ!??』
とか言ってちょうどこけた。ちょっとウケる。
走って喋る人骨?から数十m離れたところで、ヤツの動きが完全に止まってるのを確認して、恐る恐る近づいてみる。こんだけ刺激が少ない土地だから、ちょっとワクワクしていたり…。
「お、おい…。お、お前。大丈夫か…?」
こけた表紙に頭を打ったのか、目のモニター部分がくるくる回った動きをしたまま固まっている。…目のモニター?
人骨にモニター目なんてあるハズないじゃないか…と思うが、よくよく見てみると、コイツは人骨などではなかった。
「コイツ…もしかして、機械…なのか!?」
…これが、俺とコイツの、運命の出会いの日なのであった。
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