嘘つきは幸せの始まり

荒屋 猫音

第1話

○▶︎弥生

△ ▶︎俺

語尾の変更○

一人称変更○

セリフの大幅な改変×


ほとんど俺が喋ります。

○、△が着いていない部分は全て俺のセリフです。


______



「家族みたいだね」


彼女が、俺の肩を枕にするのと、

その言葉を言うの……

どちらが早かっただろう……



____


高校卒業後、特にやりたいこともなく

フラフラと大学生活を送っていたある日

フラっと立ち寄ったバーで彼女……弥生と出会った



弥生は5つ上の社会人で

その割に子供っぽさが抜けない大人で

気さくに話が出来る人だった。


話を聞くと既に結婚していて、子供が1人いる。


今日はたまだ旦那が早く帰ってきて

息抜きにどこか出かけておいで

と、貴重な時間をくれたらしい。


しかし、結婚生活とは名ばかりの

何とも冷めた生活をしているらしい。


初めて出会った時に俺がした事と言えば、

そんな大人の愚痴を聴きながら

次第に酔い潰れていく弥生を家まで送った事……


インターフォンを押すのに時間がかかったのは

言うまでもない。


何せ、酔いつぶれた嫁を、

どこの誰とも知らない男が送り届けるのだ……

旦那からしたら、良からぬ事があったのでは

と疑いの目を向けるのは当然…

それでも、俺は腹を括り、

汗ばむ手を伸ばす……


…………。


出ない。


もう一度…………


……。


やはり出ない……。


△「弥生さん、家の鍵あります?」


△「……バックの中見ますよ?」


家の鍵をバックから取りだし、

仕方なく鍵を開ける。


そこで見た光景は、

散らかった廊下と、溜まった郵便物……


子供がいると言っていたが、

その気配が何故か無い……


△「弥生さん、弥生さん!」


程よく泥酔した弥生を無理やり起こす。


んぁ……と、間抜けな返事が聞こえてきたのを確認して、

子供や旦那がいないことを伝える……


すると返ってきた言葉は……


○「……嘘……だよ。」


○「嘘、なんだよ……」


○「私は、嘘をつかないと、生きていられない、卑怯なやつで、嘘をついている時間だけが、私を癒してくれる……」


○「本当は、こんな生活してる……なんて、誰にも言えない…」


△「なら、なんであんな飲み方…」


△「まるで、俺に見せつける為に、ここまで連れてきたみたいな…」


○「だって君……君は、嘘がつけなさそうだったから」


△「……?」


○「私は嘘しかつけない……だから、君みたいな人が、本当の私を知ったらどうなるか、試したんだ……ごめんね。」


△「……」


それにしたって、この有様は酷い…


荒れ果てた部屋には、脱ぎ散らかした服や、ゴミが散乱していて、

一体どこで寝ているのか分からないほどだった……


嘘とかそんなのどうでもいい……


△「……弥生さん、とりあえず、部屋片付けさせてください」


○「…いいよぉ」


そうして始まった大掃除……

壁に寄りかかって器用に眠る弥生は

それはそれは幸せそうな顔で眠っている。


さて、どれだけ時間がかかるか…


______


△「弥生さん。朝です。」


○「……おぉ、おはよう。」


△「…郵便物だけは中身見る訳に行かなかったので、1箇所にまとめてます」


△「そのほかのゴミとか、洗濯物とか、一通り片付けました。洗濯物はコインランドリーに入れてきたので後で回収します」


○「……君は、おかしな子だねぇ」


△「…弥生さん、嘘つくのはもうやめましょう?」


○「……私が私のために嘘をついて何が悪いのさ」


△「……こんな生活になってしまうような嘘なんて、弥生さんの為にならない。」


○「なら、その嘘に付き合ってよ…」


△「……どういう…」


○「こうしていると、家族みたいだね」


△「…え?」


言うのが先か、俺の肩を枕にして眠るのが先か……

弥生は、しれっと二度寝を決めた…


嘘に付き合って……か


△「弥生さん、俺が弥生さんの嘘に付き合えば、もう他で嘘をつかなくなりますか?」


○「…………(寝息)」


△「……あんたが嘘をつかなくなるなら、まぁいいか…」


その嘘に、

付き合ってやろうじゃないか。


いつか本当にしてみせる。


この人が、ちゃんと幸せになるように。

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嘘つきは幸せの始まり 荒屋 猫音 @Araya_Neo

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