第28話 大暴走


 『札幌ダンジョン』、このダンジョンは世田谷ダンジョンと違い、人工的な作りではなく自然で作られている。

 

 北海道だから中は寒いのかと思うが、実際は真逆だ。

 中には火山が形成されていて、中に入るだけで汗が吹き出してくるほど暑い。


 このダンジョンにも階層はあるのだが、世田谷ダンジョンとは作りが全く違う。


 札幌ダンジョンは一階層下がるごとに難易度が跳ね上がるのだ。

 だから今攻略されている最高階層は4階層で、五階層目を現在攻略中らしい。


 まぁそんなことは置いといて、このダンジョンではドラゴンなどと言った、いかにも火を吹き出しそうな魔物がたくさん出てくる。

 その中には空を飛ぶ奴もいるらしいから、間違ってもそいつらを街の方まで行かせないようにしないといけない。


 とまぁ、札幌ダンジョンとはこういう場所だ。

 0時を過ぎ、もうすぐ暴走した魔物たちがダンジョンから溢れ出てくるはずだ。

 ここにいる数多くの冒険者も、表情がより一層険しくなっている。

 だが、自分たちがここを守らなければならないという気持ちもあるようで、各々やる気

に満ちた顔もしている。


『『『グオオオォォォォォ!!!』』』


 そして、ついにダンジョンの中から数多くの魔物が溢れ出してきた。


『みんなぁぁぁ!!!行くぞぉぉぉ!!!』

『『『おおぉぉぉぉぉ!!!!』』』


 それと同じタイミングでどこかの勇気ある冒険者が大声をだし、みんなを鼓舞した。


 そのまま魔物たちと冒険者たちは戦闘を開始した。

 魔物はただ本能に任せて相手を殺すため、冒険者は魔物から人間を守るために。


「さてと、俺の役目はちょくちょくいる強い奴を倒すことだな」


 最初に出てくる大半の魔物はここにいる冒険者たちだけでも処理できるレベルだ。

 だが、いかせん数が多い。本当に数が多い。

 もし、この中に混ざっている強力な魔物に冒険者たちがたくさん殺されたら、その数の多さから一瞬で周囲に被害が及んでしまうだろう。

 だから、俺が狩るのだ。


「まずは………あいつか」


 最初に目をつけたのは、俺の1番近くにいた奴だ。

 確かこいつの名前はワイバーン。普通の状態だとBランクの上位程度の魔物なのだが、幻影日の影響で今ではAランクの中間くらいの力になっている。

 ここに来ている大半の冒険者はCランクだ。


 つまり、Aランク相当の魔物なんかが攻めてきたらひとたまりもないということだ。


「お、おい!あれってワイバーンだよな!?」

「ワイバーン!?Dランクの魔物ですらここまで強くなってるっていうのに、今そんな奴が来たら……!」

「は、早くAランク以上の冒険者に知らせろ!」

「この数の魔物と戦いながらどうやって知らせろっていうんだ!!」

「知らせないと俺たちが死ぬだろうが!!」


 そうこうしているうちにワイバーンは冒険者の集団目掛けて突進していっている。

 

 俺は、そのワイバーンに向かって全力で走り出した。

 そして、0.1秒もしないうちにワイバーンに接近すると、そのまま首を切断した。

 俺はワイバーンが死んだことを確認し、また全力でその場から離れた。

 この間0.2秒。きっと誰も俺がやったと気づかないだろう。

 

「あ、あれ?なんかワンバーン死んでね……?」

「ほんとだ……。それも、綺麗に首だけ切られてる」

「何でだ……?」

 

 流石に怪しかったか?まぁ、目立つのはもう嫌だからこのやり方は続けさせてもらうが。


「あ、あれだ!神宮寺さんだ!」

「あぁなるほど!それなら急に死んだのにも頷ける!」


 神宮寺さん?誰だそれ。まぁ、冒険者たちがいい感じに誤解してくれるならそれでいいが。


 よしっ。じゃあ俺は引き続き脅威になりそうな奴らを狩っていくか。

 

 こうして、冒険者対魔物の戦いは始まった。

 

 ここにいる冒険者たちはまだ知らない。この氾濫で、地球の歴史上最悪の|化け物に遭遇することになるとは………。



 ——————————————————

 

 ズバッ


「だんだん強い奴も増えてきたな」


 氾濫が起きてから2時間が経とうとしている。

 最初の方は数こそ多かったが、魔物自体はそこまで強くなかった。

 だが今は数こそ減ったが、代わりに魔物が強くなっている。

 この調子でいけばいつかは、Bランク以下の冒険者が束になっても勝てないような魔物が増えてくるだろう。

 

 そうなったら、俺も本気を出した方が良くなるかもしれない。

 まぁ、そのことはその時考えるが。


「わ、ワイバーンの群れだぁ!!」

「こ、高ランクの冒険者が来るまで持ちこたえろおぉ!!!」


 ワイバーンの群れか……。俺が行った方が、いや、あそこは大丈夫だな。


 ズバババッ!!


「強い魔物は私が狩るわ。だから、あなたたちは自分でも倒せそうな魔物に集中しなさい!」

「東雲さん!」

「了解しました!」


 あの戦闘狂も仲間になると頼もしいな。

 この調子でいけば誰も死ぬことなく勝てるだろう。この調子でいけば、だが。


 1番心配なのは、まだ一度もフロアボス級の魔物が出てきていないことだ。

 

 この札幌ダンジョンには二層に一回フロアボスがいる。

 もしそれが一度に全部出てきたら、流石に対処しきれなくなり、死者が出てしまうだろう。


 まぁ、これは最悪の場合だ。きっとまだフロアボスがいる階層の敵が出てきてないだけだろう。

 札幌ダンジョンは広いからな。


 そうして、俺はまた戦いに戻るのだった。

 最悪の場合が、想像のまま終わることを願って。

 

 

 


 

 


 


 


 

 

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