第27話 幻影日

 

 幻影日ファントムデイ、これは異世界にもあった現象だ。

 簡単に言えば異世界の閏年には特別な力があり、その日をピークに魔物が急激に活性化、強大化する。そのことを幻影日と言うのだ。

 

 ちなみに、異世界の魔王軍は全て魔族で構成されていたので、暴れ出したのは魔王軍とは全く無関係のものたちだけだった。

 しかも、それに乗じて魔王軍まで攻めてくるんだから、もうたまったもんじゃない。

 あの時は本当に王国が滅ぼされるんじゃないかと思った。


 まぁそんな話は置いといて、もし異世界と同規模の活性化が起きていたら、魔力やスキルが目覚めてから一年程度しか経ってない地球が対抗できるわけがない。

 

 おそらく、この幻影日の影響は閏年が来る頻度によって変わるのだろう。

 だが、それでも甚大な被害が出るのは間違いない。

 幻影日は、日付が変われば影響は無くなり、魔物たちは身の丈に合わない力を手にした代償としてしばらく動けなくなる。

 だから、それまで札幌ダンジョン周辺を守り切れば良いのだ。


「華恋、俺はギルドにこのことを伝えに行ってくるから留守番しといてくれ」

「うん、分かった。けど、また急に居なくなったりしないでね?」

「大丈夫だ。今日は報告をしにいくだけだからな」

「約束してね?じゃなくて、いつも」

「あぁ……わかってる」


 前科がある以上、これ以上親しい人を傷つけないために本当に注意しないとな。


「それじゃあ、行ってくる」


 スマホや財布といった必要最低限のものを持った俺は、早足で家を出た。

 別に閏年までまだ時間はあるが、なるべく早く伝えた方がいい気がしたからだ。


 そうして俺は早足でギルドへ向かうのだった。



  ———————————————————


「と、いうわけなので、2月28日までにできるだけの対策をしてくれませんか?」


 ギルドについた俺は、受付嬢に取り次いでもらいギルマスに会っていた。


「ふぅ………、天神」

「はい」

「その話は本当だな?」

「はい、本当です」


 そのあとギルマスは俺の目を鋭く見てきたが、数秒経つとため息と共に喋り出した。

 

「はぁ、天神。私はお前を信用している。だから、お前が異世界を救って帰ってきた英雄だという話も信じるし、そこで幻影日ファントムデイという現象に遭遇したことも信じる。というか、お前の強さが異世界で鍛えたものなら納得もするからな」

「なら、できる限りの対策をお願いします」

「分かった。私にできる範囲で行動をしておこう」

「ありがとうございます」

 

 これでおそらく札幌周辺の被害は抑えられらだろう。

 あと心配なのは、出てくる魔物の強さだが、こればっかりは俺たちにはどうしようもできない。


「一応聞くが、お前も協力してくれるんだろう?」

「はい、もちろんです」

「そうか、ならお前の強さには期待しているぞ」

「はい、頑張ります」



〜1週間後〜


 

 あれから一週間が経ち、今は2月28日23時30分、つまり幻影日の30分前だ。

 この一週間の流れはとても早かった。ギルマスの人脈に頼って有力な冒険者を集めてもらったり、現地の人たちに市民の避難を促してもらったり、他にも色々とそれはもうたくさんのことをした。

 

 だが、そのおかげで対抗するための力は集まった。

 もしこれでもダメなら、地形が少し変わるかもしれないが俺が本気を出すしかないだろう。


「優真」


 Sランクの冒険者もそこそこの数来てもらっている。なかには外国から来てくれた人もいる。


「優真」


 あと、『剣聖』などの称号を持った人も来てくれているらしいが、俺には関係ない。ないったらない。


「いつまで私を無視する気?」

「優真違いだ」

「あらそう?苗字は天神って言うんだけど」

「同名の人じゃないか?」

「天神って名字、世界に1人だけだそうよ」

「へ、へぇ、そうなんだな、知らなかった」

「それで?いつまでしらばっくれる気?」

「はぁ、なんだ東雲」

「いえ、あなたのこと面白い人だと思ってたけど、ここまでとは思わなかったわ」

「なんの話だ?」

「まさか異世界を救った英雄だったなんて。この幻影日、だったかしら?が終わったらまた手合わせをお願いするわね?」

「お断りします」

「あなたに拒否権はないわよ」

「はぁそうですか……。まぁ、手合わせがしたいなら幻影日で死なないようにな」

「伊達に『剣聖』なんて名乗ってないわよ」

「なら安心だ」


 実際、東雲はだいたいの魔物に遅れをとることはないはずだ。

 一部の例外もいるが、それ以外は基本的にSランクの冒険者なら負けることはないだろうからな。


 そうこうしているうちに、時刻はもう50分になっている。

 あと10分で戦争の始まりだ。


 感覚を研ぎ澄ませてみれば、ダンジョンの中では魔物がソワソワしている。

 実際はソワソワなんて可愛いらしい感じではないが、良い言葉が見つからなかったのだ。


 ふと時計を見ると、時刻はついに59分、あと1分で戦いの幕は開かれる。

 

 心なしかみんな緊張しているようだ。まぁ無理もない。

 ここにいるほとんどの人はアメリカの大惨事を知っているのだ。緊張しない方が無理だろう。東雲みたいに呑気な方が珍しいのだ。


 そして、時刻はついに0時になった。


 さぁ、戦いの始まりだ。



  ———————————————————


この度は最新話の更新が遅れてしまい本当に申し訳ございませんでした。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る