第25話 Sランク冒険者


「はぁ、俺に人と戦う趣味はないんだけどなぁ……」


 あの後模擬戦を申し込まれた俺は、断ろうとしたが、東雲の圧に負け、結局戦うことになってしまった。

 人を切るのはあまり良いものとは言えない。人型の魔族なら異世界で飽きるほど切ってきたが、それとこれとは全くの別物だ。


「ふふふ、受けてしまった以上、手加減はしないでね?」

「流石にそんなことはしない」

「まぁ、させるつもりもないんだけどね」

「さいですか……。あ、そういえば、東雲はなんで俺に模擬戦なんて申し込んできたんだ?強い人なら他にもいるだろ」

「あぁそのことね。それは、あなたがギルド試験で斎藤を倒したのと、フェンリルを倒したのを知ってるからよ」

「あのことか……」


 フェンリルを倒したことがまさかここまで影響を与えるとは……。

 今度からは自分の顔を見せる前に走り去ることにするか。


「それじゃあ、始めるわよ。勝利条件は簡単。どちらかがこの『幻想世界ファンタジーワールド』から現実世界に送り帰されるまで、簡単に言えば自分が相手を殺したら勝ちよ」

「また物騒な」

「ふふふ、命をかけた戦いの方が楽しいもの」

「ほんとに根っからの戦闘狂じゃないか……」

 

 この人、美人なのにこの性格のせいで人生損してそうだな。まぁ、本人は楽しんで生きてるんだろうけど。


「何か言ったかしら?」

「いえ、なにも……」

「それじゃあ、このコインが地面に落ちたら試合開始よ」


 そう言い、ポケットからコインを取り出すと、東雲はそれを真上へと弾いた。


 そして、それが地面に落ちた瞬間——


キンッッ!!!


「いきなりだな……!」


 東雲は俺に切り掛かってきた。


 それを俺は刀で防ぐが、そんなことは分かっていたと言わんばかりに、東雲の剣は追撃に移っていた。


 首を狙ったその斬撃は、速く、鋭い、至高の攻撃だった。


 しかし、俺はその攻撃を体を傾けて躱わす。


「——ッ!」


 普通躱わせない攻撃を外したことに一瞬驚きを見せた東雲だが、すぐに切り替えて、さらに追撃を仕掛けてくる。


 だが、俺もやられっぱなしではない。


「天神流 三の太刀 昇龍のぼりりゅう


 俺は、追撃を加えようとしていた東雲の剣を、下から振り上げだ刀によって弾いた。


 『昇龍』、この技は、相手が攻撃してきた時に、その攻撃を下から振り上げた刀によって弾く技だ。

 この技は基本的に、相手の武器を弾くことでバランスを崩させる技なのだが、この技の真骨頂は他にある。

 それは——


「天神流 四の太刀 降龍くだりりゅう


 昇った龍は、いずれ降る。


 それは俺の技でもそうだ。


『降龍』、この技は、振り上げた刀を相手に向かって振り下ろす。ただそれだけの技だ。

 だが、さっき使った昇龍と降龍は、技同士を繋げて使うことができる。

 武器を弾かれて体勢を崩してる時に、それを直すまもなく上から斬撃を浴びせられる。それがどれだけ恐ろしいことなのかは説明する必要もないだろう。


 俺は、振り上げた刀の向きを変えると、そのまま東雲に向かって振り下ろした。


 東雲はその攻撃を横に飛び退いて躱したが、その表情には焦りが見えていた。


「この攻撃躱すのかよ……。終わらせるつもりだったのに……」

「はははっ、あなた強すぎよ。このまで差を感じたのは久しぶりだわ」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

「だから、私も本気を出さないと失礼よね」


 そう言い剣を構えた東雲は、精神を集中させ、こう呟いた。


「『スキル 神剣士』」


 その瞬間、明らかに東雲から発せられる圧が変わった。

 俺は、この状況に見覚えがあった。


「『狂化』に似たようなスキルか……」

「ふふふ、たしかにだいたいの効果は同じよ。けど、狂化は少しばかり考える力が落ちてしまうの。けど、このスキルは……」


キンッ!!


「落ちるどころか、逆に強化してくれるのよ。大幅に上がった動体視力で視認したものを、完璧に把握する。武器同士の戦いでこれ以上素晴らしいものはないわ」

「喋るか攻撃するかの二択にしてくれないか……!」


 そう言って俺は東雲を弾き飛ばし、追撃するが、それは最小限の動きで躱されてしまう。


「天神流 二の太刀 五月雨さみだれ


 そこで俺は連撃を仕掛けてみたのだが、まるでどこに攻撃が来るのか分かっているように躱されてしまう。


 五月雨を躱しきるということは、さっき言っていたことの効果は凄まじいものなのだろう。

 

「ふふふ、どう?私の本気は。どれだけ強くても、攻撃を当てられなかったら勝てないでしょ?」


 そして、東雲自身も強化された身体能力でこちらに攻撃を仕掛けてくる。


 先ほどとは比べ物にならない速さ、正確さ、鋭さ。

 そんな攻撃をしながらもこちらの動きには細心の注意を払い、俺が反撃に出ると、その攻撃は完璧に避けられてしまう。


 そんなことを繰り返していると、俺の頬に一筋の傷がついた。


 そのまま畳み掛けようとしてきた東雲だが、俺はそれを避けて一旦後ろへと下がった。


「まさかここまで強くなるとは思わなかった」

「どう?降参でもするの?」

「いや、しない。そんな君に敬意を表して少し本気を出してあげようと思っただけだ」


 そう言って、俺は刀を鞘に収める。

 そして、居合の構えをとり、こう言った。


「天神流 奥義五の型 雷化刃同らいかはどう


 その瞬間、俺の精神は極限まで研ぎ澄まされた。


「残念だけど、君の攻撃はもう見切ったわよ!」


 そう言って東雲は、これまでよりも数段速く走り、俺の首目掛けて剣を振り抜いた。

 その瞬間——


「——抜刀」


 俺の刀が鞘から抜かれ、東雲の首を切り落とした。


 その速さは今の状態の東雲ですら認識できぬ速さであり、常人が見ればいつのまにか東雲の首が切り落とされたようにしか見えないだろう。


 そして、首を切り落とされた東雲の体は、光となって消えていった………。


 

 


 

 


 


 

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