第24話 剣聖

東雲悠花side


『天神流 一の太刀 瞬光しゅんこう


ズバッ


「ふふふっ、やっぱり強いわね、この人」


 悠花は一人暮らしには広すぎる家で、ある配信を見ていた。

 それは、最近世間を騒がせていた謎の冒険者が映っている配信だ。


「けど、なぜかしら?この人にはすごく見覚えがあるのよね……」


 もともとはフェンリルを瞬殺したと言う冒険者の戦いを見るために見出したこの配信だが、なぜか悠花にはこの男に見覚えがあった。


「え〜と………、あ!あれだわ!天神優真!」


 かつてギルドマスターに紹介された男、試験でSランクと同等の実力がある冒険者を倒した男。

 いつか戦ってみようと思っていた強者。


「まさか、フェンリルをこんなにあっさりと倒すほどの実力とはね………」


 悠花もフェンリルに単身で勝利することはできる。

 だが、こんなに簡単に勝てるかと言うと、首を横に振らざるをえない。


「ふふふ、こんなに面白そうな人、これまで見たことがないわ」


 そんな強者を前に、戦闘狂バトルジャンキーの彼女が興奮しないわけもなく、顔はクールだが、内心は興奮しまくりだった。


「はぁ、早く戦ってみたいわね」


 優真はいつのまにか、『剣聖』の称号を持つ日本最強の一角に目をつけられていたのだった………。



  ——————————————————


「天神流 二の太刀 五月雨さみだれ


 そう言い優真が技を出した瞬間、周りにいた魔物たちは首だけを綺麗に切り落とされていた。



「ふぅ、今日の依頼はこんなもんかな」


 俺は、ギルドから依頼されていたB級モンスターの討伐を完了させると、その素材を全て『空間収納インベントリ』にしまい、警戒を少し解いた。


 初めての魔物討伐の時は魔物を切り刻んでしまったが、今ではだいぶコツを掴み、首から上だけを綺麗に切り落とすことができるようになった。


 異世界にいたころも最初の頃は首だけを切っていたのだが、ある日首を切っても死なない敵に出会ってからは全身を切り刻む倒し方に変えた。

 何度首を切っても死なない絶望なんて、味合うのは一度でいいのだ。


「よしっ、依頼も達成したしそろそろ帰るか」


 そう呟いた俺は、ダンジョンの中を走り抜けるのだった。



  ——————————————————


「あぁ〜、終わった」


 あの後俺は依頼の達成の報告と素材の提出を済ませ、今はギルドにある酒場に来ている。

 ここでは純粋に食事をする人や、パーティで作戦を考える人達など、たくさんの人たちで賑わっている。

 俺も、依頼の後はここで食事をしてから帰るようにしている。平日のこの時間だと家に帰っても誰もいないからだ。


「それに、ここのご飯はうまいからなぁ」

「そうね、ここの食事は冒険者が良い調子でダンジョンに潜れるように栄養や味まで全てが完璧に考えられているもの」


 ヘぇー、そうだったのか。俺も今度ダンジョンに潜る前に食べてみよっかな。


「ちなみに、私のおすすめはこのピザね。最近は色々な味が出てるけど、結局シンプルなのが1番なのよ」

「へぇー、そうなのか」


 それなら今度はピザを食べてみるか。


「それなら他にも聞きたいことがあるんですけど」

「何かしら?」

「あなた、誰ですか?」


 そう、今の今まで自然に会話しすぎて全然気にしてなかったが、この人とは初対面。本当なら初めましての挨拶から始めるべきなのだ。


「私は東雲悠花。気軽に悠花って言ってくれて良いわよ。年も近いだろうし」

「じゃあ、東雲、いきなり話しかけて来てなんの用だ?」

「流石に初対面で名前呼びは早かったかしら?まぁ、良いけど。それより、私が名乗ったんだからあなたも名乗るべきじゃない?」


 確かに。相手が名乗ったなら俺が名乗るのも礼儀か。


「俺の名前は天神優真。それで、東雲は俺になんの用だ?」


 俺と東雲はこれが初対面。しかも、こんな美人が俺に話しかけるなんて余程の理由があるに違いない。


「実は、あなたにお願いがあって来たの」

「お願い?」

「そう、お願い。このお願いは私の人生の全てと言って良いほど大事なこと」

「言ってみてくれ」

「それは…………私と戦ってほしいの」


 ………………………ん?戦って欲しい?それが人生の全て?い、いやいやいや、そんなはずはない。そんな戦闘狂は異世界でもみたことがないしな。きっと聞き間違いだろう。


「すまん、よく聞こえなかったんだ。もう一回言ってくれないか?」

「そう?ならもう一度言うわね。天神優真、あなたには私と戦って欲しいの」


 ……………………どうやらこの人は、異世界にもいないくらいの戦闘狂のようだ。



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