第22話 周りからの視線


「ふぁ〜、よく寝た……」


 俺は、あの子を助けたあの日からギルドに行くことを控えている。


 なんか、本能的に行ったら面倒臭いことになりそうだと感じたからである。


「けど、そろそろ行かないとニートになってしまう……」


 そう、俺はあれから一週間家からほとんど出ていない。

 流石に近所くらいなら大丈夫かな、と思って外に出ようとしたら華恋に「ちょっとお兄ちゃん!何出かけようとしてるの!?今やお兄ちゃんは時の人なんだから、出かけるのはもう少しほとぼりが覚めてからにして!」と、口を酸っぱくして言われたからだ。


 さすがにそこまで言われて出かけるほど俺は馬鹿じゃないので、この一週間くらいは我慢していたが、そろそろ何かしないと落ち着かなくなって来たのだ。


「よし、そろそろほとぼりも覚めただろうしギルドに行くか」


 流石に一週間も経てば俺程度の話題など無くなっているはずだ。


 そう決めた俺は、早速準備を始め、戸締りをしてからギルドに向かったのだった。



  —————————————————


「なぁなぁアイツってさ、なずかちゃんのことを助けてたやつだよな?」

「そうそう、フェンリルを瞬殺してたやつ」

「実際さ、あれって本当のことなんかね」

「まぁ、生配信だったし、CGの可能性は低いよな」

「つまり、あいつは1人でSランクすら苦戦する敵をぶっ倒したと」

「ははっ、やべーな」


 ギルドに入ったとたん、俺の耳にはそのような声が聞こえて来た。

 しかも、一箇所ではなくそこら中から。

 どうやら、有名配信者を助けたと言う話題は一週間程度じゃ収まらなかったらしい。

 

 マジか……、たしかに多少はいるだろうとは思っていたが、ここまでいるとは完全に予想外である。

 

 そんな予想外のことに狼狽えていると、急に俺の背中の方から声がした。


「あなた!」


 そう言われて俺は振り返る。もしかしたら俺じゃないかもしれないが、念のため。


 そこで目に映ったのは、先日助けた少女だった。


「やっとギルドに来たんですね。待ちくたびれました」

「えっと、俺に話しかけてるんだよな?」

「えぇ、それ以外に誰がいると?」

「あ、あぁ分かった。それで、今日はどうしたんだ?」

「今日は、イレギュラーから助けてくれたお礼をしようと思いまして」

「お礼ならもう受け取ったけど……」

「そういうのではなく、ちゃんとした私から渡すものです」

「別に良いって、助けたのは単純に俺がほっとけなかっただけだから」


 異世界にいた時は、数えることができないくらいたくさんの人を助けた。

 その感性はそう簡単に変えられるものではないのだ。


「それでは私が納得しないのです」

「うーん……じゃあ、サインをくれないか?」

「サインですか?」

「そう」

「そのくらい構いませんが……本当にその程度のことでいいんですか?」

「あぁ、構わない」


 そうして取り出した板に、なずかは丁寧にサインを書いてくれた。


「これで良いですか?」

「あぁ、多分大丈夫だ」

「なんと言うか、私が思っていたお礼と全然違うんですが……」

「なんか言ったか?」

「いえ、なんでもありません」


 そうか……、なんか言ったと思ったんだがな。

 それにしても、華恋はこれで満足だろうか。特に何もお礼が思いつかなかったから華恋にお願いされたなずかのサインを書いてもらったが、書く位置とかはここで良かったんだろうか。

 まぁ、きっと大丈夫だろう、たぶん。


「それじゃあ、俺はもうそろそろ行く。お礼はしっかり受け取ったから、もうあのことは気にしないで良いからな」

「はい……本当にあの時はありがとうございましした」

「もう気にしないで良いよ。それじゃあ、また会う機会があったらまた会おうな」

「あ!最後にあなたの名前の名前を教えてくれませんか?」

「あぁ、俺の名前は天神優真」

「私は中野静華です」

「ちょっ!本名名乗って大丈夫なの!?」

「はい、優真さん以外には聞こえないようにしましたから」

「まぁ、それなら良いか……良くないけど」

「それでは、また会いましょうね」

「あぁ、機会があったらな」


 そう言って、俺は中野の元を離れて行った。

 中野はまた会おうと言ってくれたが、まぁお世辞だろう。俺と彼女じゃ住む世界が違うからな。


 そう思った優真だが、その二週間後には本人の配信に出ることになる。

 この時の優真はそんなこと夢にも思わなかったのだった。



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