第17話 散髪

 俺は今、陽キャの町にいる。

 なぜこんなところにいるのかと言うと、昨日決意した少しでも皆んなと一緒にいて恥ずかしくない自分になるためである。

 具体的には髪を切りに来たのだ。

 

 今の俺は、5年も髪を切っていない状態である。栄養不足などで髪が伸びる速度は遅かったはずだが、それでも5年も切っていなかったから前髪が鼻くらいまである。

 これはいけないと思い、今日は華恋に聞いたオススメの美容院で髪を切ることにした。


 だが、実際に来てみで思ったが、ここは俺のような奴が来るところではない。

 まず、ここにいる人の大半が陽キャだ。

陰キャの真反対を生きるものたちの集まりなのだ。

 それだけでも行きたくなくなるが、他にも理由はある。

 それは、道ゆく人々が俺の顔を見ては「陰キャが何しに来たんだよ」みたいな目で見てくることだ。

 正直これはかなり心に来る。

 俺だって好きでここにいるわけではないのだ。そんなこと言われなくてもここが俺にとって場違いなのはよくわかっている。

 まぁ、今回は目的があって来ているので帰るつもりはないが。

 だから、俺は早急に散髪を終わらせて帰りたい気持ちなのである。


 そんなことを考えていると、少し先の方に今回の目的地の看板が見えた。


 華恋にオススメされて来たこの美容院の名前は『Merveiメルビー』と言うらしく、最近ちまたで話題になっているお店らしい。

 試しに行ってみたところとても良かったらしく、行くならここと言われた。

 俺はそう言うことに疎いので、教えてもらったことには感謝している。

 けど、こんなに華やかな街にあるなら先に行って欲しかったけどね……。

 まぁ、文句を言っていてもしょうがないので何も言わないが。

 

 そうして俺は、美容院の扉を開いた。



  ——————————————————


 カランカラン


 ドアについている鈴が心地のいい音をたてる。


「いらっしゃいませ〜」

「あの、今日予約を入れてる天神なんですけど……」

「あなたが天神くんね!妹さんからもお話は聞いてるよ〜」

「え?妹を担当したのってあなたなんですか?」

「うんうんそうだよ〜、あと敬語やめていいよ?」

「いいんですか?」

「いいよ〜そっちの方が仲良くなれた感がするし」

「最初からタメ口は難しいので、少しずつでいいですか?」

「全然いいよ〜。けど、少しずつフランクに喋れるようになってくれたら嬉しいな!

それじゃあ、最初はシャンプーをするからシャンプー台に移動してくれるかな?」

「はい」


 そう言って、俺はシャンプー台に移動する。

 今回俺を担当してくれるのは、前回妹のことを担当した人だった。

 今日は、妹からお願いされたから予定を空けといてくれたらしい。すごくいい人である。

 ちなみに、名前は上川瑠衣かみかわるいというらしい。

 

 

 その後、俺は上川さんに頭を洗われた後、髪を切るために違う椅子に座る様に言われたのでそこの席に移動した。

 しばらくすると、いろいろな道具を持って来た上川さんががテキパキと髪を切るための準備を始めた。

 そして、準備が整うと俺に質問をして来た。


「天神くんは、どんな髪型にしたいとか希望ある?」

「特にはないですけど、強いて言うなら短いのは嫌ですね」

「じゃあ、それ以外の髪型で似合いそうなやつを選んじゃっていい?」

「大丈夫です」

「よしっ、じゃあ始めちゃうね!」


 そう言って上川さんは俺の髪を切り始めた。

 

 途中で「ここはこうするけどいい?」や「天神くんはここどうしたい?」などと聞かれたが、そう言うことは全く分からないので、全て「お任せします」としか言えなかった。

 流石に質問全部お任せしますはまずかったとは思うが、もう後の祭りなので次回来る機会があれば、それまでには勉強してちゃんとした答えができるようにしておこう……。

 俺はは密かにそう決意したのだった。



  ——————————————————


「は〜い、終わったよ〜」


 そう言われて俺は、持って来た本を閉じて顔を上げ、鏡を見た。

 するとそこには、頭がとてもスッキリした俺が写っていた。


「すごくスッキリしましたね」

「そうだね〜、それにしても天神くんってすごいイケメンだったんだね、私びっくりしちゃった」

「ありがとうごさいます」

「けど、その敬語は直してくれないんだね〜」

「流石に会ったばっかりでタメ口は難しいですって」

「そっか、それじゃあ次に会う時はタメ口にしてね?」

「善処します」


 確かに、ここの外の空気は少し苦手だが、ここの美容院自体はとても良かったのでまた来てもいいかもしれない。


「あ、そうだ。ねぇねぇ天神くん」

「何ですか?」

「天神君ってさ、REINやってる?」

「俺、今スマホ持ってないんですよね」

「え!?そうなの!?」

「はい」

「そっか、じゃあ私の連絡先だけ渡しとくね」

「なんでですか?」

「営業だよ営業」

「なるほど……美容師も大変なんですね」

「そうだよ〜、だから私を助けると思ってまた来てね?」

「はい、できればまた来ます」


 そう言って俺は、お金を渡して『Mervei』を去ったのだった。


「営業って言っても、男の子は君が初めてだよ」


 そんな誰かのつぶやきは、誰の耳に届かずに散っていった。



  ———————————————————


【感謝とお願い】


読みに来てくださった皆様、ありがとうございます!

初めて書く作品なので、誤字や脱字があるかもしれません、なので、もしあったらコメントをよろしくお願いします。あと、自分も初めて書く作品なのでもし「ここの話おかしいんじゃない?」とか、「ここもっとこうすべきじゃない?」と言うところもあったらでは教えてください!


最後に、「話の続きがきになる!」などと思っていただけましたら、☆評価をお願いします!

それではまた次のお話で会いましょう!



 

 


 


 


 

 

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