第2話 苦手なもの
「おはようブラッドリー!」
今日は土曜日で幼稚園にいかなくていい。僕は、朝一番乗りでリビングにいるロボットの友だち、ブラッドリーのところへ走っていった。
「おはようアーチー。今日はなにをするんだい?」
「やることなんて決まってないわよブラッドリー。」
ママがふふっと笑いながらリビングに入ってきた。幼稚園がお休みの日はだいたいひまだから、お昼ごはんを食べる時間になるまではテレビを見たり、お庭で遊んだり日によってやることは変わる。
「ブラッドリーはなにかしたいことある?」
「したいこと?したいことって、どんなこと?僕は、アーチーがすることを一緒にするためのロボットなんだ。だからわかんない。」
「ブラッドリー、したいことっていうのはね、やりたいこととおんなじよ。これをやってみたい、これをしてみたいってあなたが思うなら、それがしたいことよ。例えば、お腹が空いた…ブラッドリーで言うなら、バッテリーの残りが少なくなったとき、充電したいって思うでしょう」
「うん、シェリー。バッテリーが少ないと僕は動きにくくなっちゃうんだ。」
「そうね。それでね、充電したいって思ったら、それがしたいことなの」
ブラッドリーは体を傾けてママにたずねた。
「したいことって、それだけなの?」
ママと僕は顔を見合わせた。
「それってどういうこと?」
「したいことっていうのは、充電したいって思うことだけがしたいことなの?」
ママはブラッドリー、と彼の頭に手を置きながら言った。
「したいことはそれだけとは限らないの。私も全部教えられるわけじゃないのよ、でもね、したいことはその時、その時に見つけられるからね。」
「ちょっとだけわかった!」
「よかったわ…さぁ!アーチー、あなたは朝ご飯を食べなさい!」
「はぁ〜い」
「アーチー、ご飯食べ終わった?」
ブラッドリーが車輪を勢いよく転がしてやってきた。
「うん!ねぇブラッドリー、一緒にテレビ見ようよ」
「もちろん!みよう!」
僕とブラッドリーはソファに座った。ブラッドリーは僕が持ち上げてあげたんだけどね。僕はテレビのリモコンのボタンをぽちぽち押しながら、ジュースがないことに気が付いた。テレビを見るならジュースはやっぱり大事だ。朝から飲むとママに怒られるから、バレないように僕は台所へ向かった。
冷蔵庫の扉を開けて、ジュースのパックを取った。ストローを刺して、ブラッドリーの隣にドサッと座った。ブラッドリーはぽよんと跳ねた。そこからお昼までテレビを見るつもりだった。ママが来るまでは。
「アーチー。たまには外で遊びなさ…あっ!?」
「なに、ママ?」
「あなた隠しても無駄よ。また朝からジュース飲んでるのね!?」
「いいでしょ〜」
「だめ。ほら冷蔵庫に持っていくから貸しなさい」
僕はジュースをママに渡すつもりはない。だからジュースのパックをぎゅうっと握りしめた。ママがやめなさいって言うから、もっと握りしめたときだった。バンッっという音といっしょに、パックの中のジュースが飛び出してしまった。パックは潰れてしまっていた。
「あーあ、やっちゃったわね…しゃーないかぁ」
ママはふぅっと息を吐き出すと、布巾を取りに行こうとした。そのとき、ウィーンウィーンという機械の音がした。そちらをみると、隣りに座っていたブラッドリーがジュースまみれになっていた。
「ああああ、ブラッドリー!」
僕はブラッドリーに大丈夫?と聞いたけど、ブラッドリーは慌てふためいていた。
「わぁぁぁあっ、あ、アーチー、ぼくはみ、水が苦手なんだ!どうしよう!ぼくのからだにはみずはよくないんだ!!」
「ブラッドリー、落ち着くのよ。大丈夫。体の内側には入っていないでしょう。体を拭けば大丈夫よ」
ママは取ってきた布巾でブラッドリーの体を、床を拭いたあと、またため息を吐いて言った。
「なにもかも洗わなきゃね」
「僕の服もママの服も、ソファカバーとか、ラグとか、全部濡れちゃった」
ママは僕をまっすぐ見て言った。
「アーチー。1つだけ忘れているわ。あなたには洗うものがもう一つある」
「なに?かみのけ?」
「あなたのバレないようにしようとか考えちゃうそのよごれた心よ。今回のことでわかったでしょう。ママとの約束が守れないならこういうことになっちゃうのよ」
僕はそっか、とママを見て言った。
「ママ、ごめんなさい」
「よろしい。さ、シャワーでも浴びてこのオレンジジュースまみれの身体を洗っておいで」
ブラッドリーはからだをぷるぷると震わせながら言った。
「僕もシャワー浴びなきゃだめ?」
ロボットのブラッドリーとぼく 弥生ホノカ @honomaru_0523
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