最終話 素敵な人
「私、ヴィオレッタさんみたいに、大人っぽい素敵な女性になりたかったのに……。こんなちんちくりんのボサボサの髪でぺったんこの胸とか……もう本当にいやぁ……。この若草色の瞳も嫌い……うわ〜んっ」
エルジュは再び布団の中に隠れた。
部屋を出ようと思っていたカーディナルは、もう一度、エルジュの側に座った。
「……俺は、エルジュのその瞳、好きなんだが……何でエルジュは嫌いなんだ?」
ちょこっとエルジュが布団から顔を出す。
「だ、だって緑色のイメージって、未熟とか……色気がない……とか。私そのもの。私、一生素敵な女性になれない〜……」
「エルジュは、もうすでに素敵な女性だ」
カーディナルのその一言に、目をパチパチさせるエルジュ。
「わ、私が……もうすでに素敵な、女性?」
カーディナルは頷いた。
「あぁ。君は魅力的な、素敵な女性だ」
「み、魅力的って……。そんな、こんな私に一体、どんな魅力があるって言うんですか……」
もぞもぞと布団に隠れようとするエルジュ。
エルジュが隠れきる前に、カーディナルは口を開いた。
「その若草色の瞳をキラキラさせて、今日あったことを語る君は、見ていて飽きない」
「わ、私……そんなに顔に出てましたか……」
「俺が帰って来る時、玄関でいつも出迎えてくれるの……凄く嬉しい。あと、ちょっと上目遣いで俺のことを見る姿が、可愛らしいなといつも思っている」
「それは、旦那様、背が高いですから……上目遣いにどうしてもなるってだけですが……」
「それと、姉上から聞いた。くせ毛の髪が気になっていると。サラサラのストレートに憧れていると。でも、俺はこのふわふわした亜麻色の髪、好きだ」
「そ、そ……そうだったんですか?」
「口紅……姉上と同じ赤色が気になっているみたいだが、俺はエルジュにはコスモスみたいな色の口紅の方が似合うと思う」
「コ、コスモス色……」
「それと、エルジュには、思わず抱きしめたくなる可愛さがある」
ガバッとエルジュは起き上がり、カーディナルの口をむぎゅっと両手で塞いだ。
「ま、ま、待ってください、旦那様っ……!恥ずかしいので、それ以上はっ……!と、というか、今日の旦那様、変ですよ!?普段、こんなにお喋りではないのに……どうしちゃったんですか?」
エルジュは塞いでいた手を離す。
「……姉上に、言われた。エルジュのことが好きならちゃんと言葉にして伝えろと。いつも、エルジュのこと、可愛らしいと思っていた。君の存在に癒やされていた。この想いをどう伝えようか迷って、いつも機会を失っていた……」
カーディナルのその言葉を聞いて、ふとエルジュは思い出したことがあった。
数日前、夕食のときに、カーディナルはエルジュに何かを言おうとしていた。これまで、似たようなことが何度かあった。
「その……旦那様。ありがとうございます」
「え?」
「私、自分の見た目が、凄く嫌いだったから……。旦那様のおかげで、少し、自分のことが好きになりました。あと、旦那様のことがもっと、好きになりました」
ふにゃっとした笑顔をエルジュは浮かべた。
「……エルジュ、抱きしめても、いいか?」
「え、でも私、熱出してるし……」
「大丈夫」
カーディナルはぎゅっとエルジュを抱きしめた。
ふわふわの亜麻色の髪を優しく撫でてくれる。
エルジュは目一杯の愛情を感じて幸せだった。
エルジュが完全完治してから数日後、2人は街へ出掛ける予定を立てていた。
「旦那様、お待たせしました!」
カーディナルの前に、プレゼントした緑色のカシミアのショールを身に着けたエルジュが姿を表した。
「よく似合っている」
カーディナルは、ほんの少し口角を上げた。
エルジュもニコニコ笑顔になる。
すると、カーディナルがエルジュの髪飾りに触れた。
「これ……姉上がエルジュに贈った髪飾りだったな」
「あ、はい。そうです」
今日の服装に似合う髪飾りをとエルジュが選んだのは、以前、ヴィオレッタから貰ったマーガレットの髪飾りだ。
珍しく、カーディナルが少し不満そうな顔をした。
「今日は、髪飾りも買いに行こう」
「ふふ、旦那様がどんな髪飾りを選んでくれるのか、とっても楽しみです」
お父様、お母様、お元気ですか?
私は、ちょっと前に熱を出しましたが、無事に完治しました!
私、リーフデ家に嫁いで本当に良かったと思っています。
ヴィオレッタさん、そして旦那様が、とても優しくて、素敵な人で、私、幸せです!!
推しは旦那様のお姉様 天石蓮 @56komatuna
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