第139話 出来立てを食べましょう
平たい薄い豚肉に少し塩コショウをして、野菜を入れてくるくると巻く。小麦粉をぱたぱたとつけて、溶いた卵にくぐらせ、パン粉をつける。野菜は彩りよく、いんげんににんじん、キャベツ、それからじゃがいも。キャベツ以外は塩茹でしてある。いんげんとにんじんをいっしょに入れたり、じゃがいもだけにしたり、少しずつ全部入れてみたり。キャベツだけのも意外においしい。
熱した油に入れてきつね色になったら取り出す。いくつもいくつも揚げて、キッチンペーパーを敷いた大皿に盛りつけていく。換気扇はつけているけれど、いいにおいが家中に広がるみたいだ。ごはんは土鍋で炊いてあって、いまは火を止めて蒸らしている。食卓に並べるころにはちょうどよいころ合いだろう。
「ねえ、ママ! きょうのごはん、なに?」
「揚げ物だよ!」
「なんの?」
「それは食べてのお楽しみ! 豚肉で巻いてあるやつだよ」
「へえ! あのね、ボクね、かぼちゃ食べたい!」
「かぼちゃ?」
「そう!」
慶はそういえば、かぼちゃのフライが大好きだったと、伊世は思い「じゃあ、かぼちゃもつくるね」と言った。慶は「わーい!」と言って、リビングに走って行った。そして、部屋中に広げたプラレールで遊び始めた。
かぼちゃ、確か前使った残りがあったはず。
伊世は冷蔵庫からかぼちゃを出して、三ミリくらいの幅の一口サイズに切っていく。よく熟れているから、切りやすくてよかった。両手に乗るくらい切ったところで、こんなものかなと思い、切るのを止める。水で溶いた小麦粉にくぐらせ、パン粉をつける。そして、どんどん揚げていく。慶はかぼちゃが好きだから、今度からはかぼちゃのフライを作ってから肉系を揚げることにしようと思う。
かぼちゃは薄く切ったので、すぐに揚がる。きつね色になったところを、網でまとめて掬い、豚肉巻とは別の大皿に乗せて行く。
「慶! 味見する?」
「うん!」
慶は顔を輝かせ、ぱっと飛んでくる。伊世は小皿に揚げたてのかぼちゃを二切れ乗せ、爪楊枝を刺して渡す。
「熱いよ?」
「うん、ふうふうして食べる」
慶が真剣な顔をして食べているのを見て、伊世は何とも言えない幸福な気持ちになった。
「おいしい!」
「よかった! じゃあ、ごはんの支度、手伝ってくれる?」
「うん!」
伊世は慶といっしょに食卓の上にランチョンマットを並べたりお箸を並べたりした。揚げ物が並んだ大皿を並べ、作ってあったサラダも並べる。小皿を並べたところで、伊世は「慶、パパ、起こしてきて」と言った。これから炊きたてごはんをよそうのだ。夫が起きてくるころには、ほかほかのごはんが並んでいる。
今日は土曜日。夫は連日の残業で疲れていて「ちょっと寝てくる」と言って、朝からずっと寝ていた。明日まで寝かせてあげたい気もするけれど、休日の夜ごはんくらい、みんなでいっしょに食べたい、と伊世は思う。それに。
「パパ! ごはん出来たよ! ボク、出来たてごはん、いっしょに食べたいよ!」
そうそうと、慶の言葉を聞き、伊世は口元に笑いを浮かべた。
それに、ごはんは出来たてをいっしょに食べたい。だって一番おいしいから!
「出来立てを食べましょう」 了
*ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。
1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。
毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!
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