第134話 夜の海辺で
マシュマロ、たいまつ、甘い香り、揺れる炎、波の音、絡まる指、寄り添う体温、黒い海、砂の感触、黒い空に散りばめられた星ぼし、銀色の月、月の光に照らし出される男と女の顔。
「ねえ、マシュマロ、溶けちゃったよ」
「ほんとだ。ちょっと焼こうと思ったんだけどな」
たいまつを砂浜に立てて、キイラとチサキはたき火をしていた。月明かりとたいまつとたき火の明かりのみで、空も海も真っ黒だった。真っ黒な空と真っ黒な海の境目は茫漠としていて、波の音だけが海であることを顕していた。
マシュマロが溶けてしまった串、暖かな橙色のたいまつ、砂糖の甘い香り、落ちた月光でつくられる陰影、繋いだ手に込められるちから、歌うような波の音、触れた唇の熱。
「あまい」
「マシュマロ、食べてないよ?」
「うん、でも、チサキの口の中、あまい。……もっと」
たいまつの炎が微かな風に揺れた。キイラとチサキはお互いの味を交換しながら、手はお互いの身体を求めた。波の音が真っ黒な空と真っ黒な海に響く。二人はいつしか砂浜に寝転び、息を荒くした。
焼け落ちた串、ほのかに揺れるたいまつの炎、小さくなっていくたき火、二人から発せられる熱、息、唇、指、重なり合う影、夜空に滲む光、規則的に響く黒い海の音。
「熱いマシュマロ、おいしかったかな?」
「きっと」
「チサキもあまくておいしい」
「キイラもあまいよ」
「ねえ、砂だらけになっちゃったよ」
「宿に戻る?」
「うん」
キイラとチサキは立ち上がって砂を払った。細かい砂が飛び散って、月の光にきらきらした。キイラはチサキの、チサキはキイラの服の砂を払った。
「髪にも砂がついているよ」
「じゃりじゃりだ」
「ふふ。じゃりじゃり」
キス、砂、体温、消えた炎、舌、唾液、髪、波の音、指、甘い香り、月、黒、星、愛。
「シャワー、浴びたい」
「うん」
「続きは、それから」
「うん」
繋いだ手、見つめ合う瞳、たいまつ、砂浜に残る足跡、黒い波音、滲む月光、心。
寄り添う影、揺れる明かり、ささやかな息遣い、黒い空、散りばめられた星ぼし、夢。
触れ合う肩と肩、囁き、甘い指先、震え、海の香り、熱、高鳴り、吐息、あまやかな期待。
「夜の海辺で」 了
*ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。
1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。
毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!
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