第131話 ねこねこ日記(14)【こくいち④】

 最近、困ったことがあるんです。


 あたしはみけ姉ちゃんといっしょに、ブロック塀の向こうをにらみつけた。

 ああ、いた。

 大きな大きな、グレーのトラ猫。

 のっしのっしとブロック塀の上を歩いて、こちらに歩いてくる。

 くろ父さん……!

 あたしとみけ姉ちゃんはかりかりを食べることも出来ずに、じっとトラ猫を見ていた。にらみつけたけれど、全然効果はなかった。トラ猫に対抗出来るのは、くろ父さんくらいしかいない。でも、くろ父さんはいない。


 ああ、このままだと、あたしのかりかり、食べられちゃう。もう逃げないと、まずい。

 腰がひけて、今にも逃げようとしたとき、ガラス戸が開いてニンゲンが

「こっくー? かりかり食べないの?」

 と、言った。

 あたしは訴えた。目で訴えた、頑張って。

「こっくー? あ! トラ!」

 ニンゲンがそう言ったとたん、トラ猫は逃げて行った。


 ううう。よかった。お腹も空いていたし、のども乾いていたの。

「こっくちゃん、トラ、だめなの?」

 うん、だめだめ。あたしもみけ姉ちゃんもトラには勝てないから。

 あたしはみけ姉ちゃんといっしょにかりかりを食べるために、餌入れに近づいた。

「ここは、くろ一家のナワバリだもんねえ」


 うんそう、そうなの!

 あたしはかりかりを食べ始めた。みけ姉ちゃんは後ろで待っている。最近、みけ姉ちゃんはあたしに最初を譲ってくれるんだ。ふふ。

 みけ姉ちゃんはちょっと後ろを見て、トラ猫を気にしていた。

 トラ猫、怖いよね。最近、この辺に来たんだよね。


 暗黙の了解があって、ねこはお互いのナワバリをちゃんと理解している。ここはくろ父さんがくろ一家のナワバリにしたおうち。

 あの大きなグレーのトラ猫は新参者だから、ここがくろ一家のナワバリって分かっていないのだと思うんだ。

 いや、分かっていても来るんだよ、とみけ姉さんが言った。

 そうなのかなあ。怖いなあ。


 くろ父さんは最近また怪我をした。右足、せっかく治って来たのにな。

 今度は耳を怪我していた。

 くろ父さん、早く怪我が治るといいなあ。心配だなあ。

 あの大きなグレーのトラ猫、どこか別の場所に行くといいなあ。

 こくいっちゃん、早く食べて! あたしもお腹空いているの!

 みけ姉ちゃんが言うので、あたしは急いでかりかりを食べた。





  「ねこねこ日記(14)【こくいち④】」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

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