第121話 ねこねこ日記(13)【みけ④】

 あたしがおねだりしたのに、こくいっちゃんたら、あたしより先に食べるのよ、もう!

 でもだって、お腹空いてるの~

 って、こくいっちゃん。

 ……もお、仕方がないなあ。


 あたしは末っ子のこくいちを、眺めた。目を閉じる。

 あ。風が吹いた。

 ひげが揺れて、冬の風を感じる。

 でも、今日は暖かい。小春日和だ。

 こくいちはまだ食べている。家族で一番小さなからだで、一生懸命食べている。黒い毛が太陽に光って、とてもきれい。


 みけねーちゃん、ありがとー!

 こくいちがあたしをじっと見る。

 ああもう、かわいいなあ。

 さて、ごはんを食べようかな、と思って餌入れを見たら、見事に空だった。

 えへって、いう顔のこくいち。

 ……こくいっちゃん……

 仕方がないなあ。


 あたしはガラス戸の向こうをじっと見た。するとニンゲンと目が合う。

 おかわり、ください! あたし、食べていないんです!

 目で訴える。

「あ、なくなっちゃったの?」

 そうですそうです、あたし、まだ食べていないの。

「ちょっと待っててね」

 はーい、待ってます!


 ニンゲンがかりかりと命の水を入れてくれる。

「あ、もしかして特別に缶詰、あげようか?」

 え? カンヅメ? って、あの、おいしいやつ⁉

 あたしは思わず目をきらきらさせた。

 う、嬉しい!

 ニンゲンがカンヅメを持ってきた。カキって音がして、もうそれだけでわくわくした。


 わーい、と思って食べようとしたら、遊びに行ったと思っていたこくいちが戻って来て、目をきらきらさせてカンヅメを見ていた。

 ……こくいっちゃん……

 そして、あたしよりも先にカンヅメを食べ始める。

 ……こくいっちゃん……

「みけ、大丈夫よ。まだあるから」

 ……ま、いっか。


 ゆっくり待とう。時間はたっぷりあるんだから。





  「ねこねこ日記(13)【みけ④】」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

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