第120話 夜が消えた日

 白夜って知ってる? 夜が来ないんだ。地球の地軸が23.4度傾いているから太陽が沈まないんだよ。北極や南極で起こる現象だよ。


 でもさ。考えてみて。

 今の僕たちの現状も、夜なんて、もう存在しないよね。

 永遠に明るい。人工の光が常に街を満たしている。

 この街にはもう夜はないんだよ。そうは思わないかい?

 みんな、街が明るいことに慣れ過ぎてしまって、夜なんて、もうお話の中の出来事でしかなくなっているんじゃないかな?

 夜になったら眠るんじゃない。

 時間になったら眠るんだ。睡眠時間を計算して、逆算して眠る。

 いつの間に、こんなふうになったんだろう?

 街が明るすぎて、星はもう見えなくなってしまった。


 動き続ける街。動き続ける人。人工の光の洪水。

 僕たちには夜はない。

 眠りについている間にも、スマホがタブレットがパソコンが、僕たちについての情報を流しそして情報を収集している。ある意味、僕たちは眠ってすら、いない。


 動き続ける僕たち。動き続ける電子機器。決して消えることのない街の灯り。

 夜という畏れの消えた世界。

 仕事も学校も今やオンラインで、しかもバーチャルでコアタイム以外は自由に時間を設定出来るから、「夜に眠る」なんていう概念すら消え去っている。


 白夜なんて知るはずがない。

 そもそも、真っ暗な夜を知らないのだから。


 夜が消えた日、僕たちはいろいろなものを失った。

 星を失った。

 眠りを失った。

 畏れを失った。


 休息を失った。

 繫がりを失った。


 深い思考も生のおののきも。


 もしかしたら、僕たちは「人間であること」を失ったのかもしれない。 





  「夜が消えた日」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

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