第112話 雪予報

 明日は雪が降るらしい。

 僕はいつもの道を歩きながら、通りの梅の木を眺めた。白梅がいくつか花を咲かせていた。明日は雪の予報だが、今日は晴れていて気持ちのいい朝だった。


 陽が昇るのが早くなった。

 少し前ならこの時間はまだ薄暗かったのに、今日はもう明るく、空は既に白んでいた。薄く青みがかった空が広がっていて、太陽は斜めではなく高いところから、その陽の光を伸ばしていた。

 吐く息はやはり白い。陽が昇るのが早くなったとしても、やはり冬だ。でも、今日は気持ちのいい寒さだ。


 ふとまた空に目をやると、白くて丸い、でも少し下の部分が欠けた月がぽつんとあった。白い月は好きだ。小さい頃は雲の月だと思っていた。

 そう言えば、三歳になる息子が飛行機雲のことを、雲の線路だと言っていたなと思い出す。電車が大好きで、「よく電車を見に行くの」と奥さんが言っていたなあ。家の中もプラレールでいっぱいだった。ときおり、家に帰ると、部屋中線路が出来ていることがある。そういうとき息子は、「すごいでしょ!」と自慢げに言う。明日は雪が降るらしいから、きっと家の中はまたプラレールの「すごいでしょ!」と言う線路が出来るのだろう。


 駅に着いて、改札を抜ける。

 もし、土曜日、雪が解けていたら、息子といっしょに電車の旅に出かけよう。少し遠くまで、特急に乗って行くのもいいかもしれない。きっと喜ぶだろう。今週、雪解けが難しいようなら、来週でもいい。


 いつもの電車が来て、乗り込む。

 路線図が自然に目に入り、どこの駅まで行こうか考える。路線図はまるで夢の道筋のようだ。いろいろな駅名があり、そしてさまざまな路線が網の目のように広がっている。いろいろな色の線があり、遠くへと繋がっている。


 どこまで行けるかな?

 三歳だから、まだあまり遠くには行けないだろう。

 だけど、それでもきっと冒険だ。

 電車の旅に出る日は男同士で行こう。

 そうしたら、奥さんも少しはゆっくり出来るかもしれない。ああ、そうなると今週がいいか来週がいいか、奥さんに聞かないといけないな。

 電車は会社へと向かって走っていく。

 でも同時に楽しい計画も伴って走っていった。

 

 明日は雪が降るらしい。

 息子はプラレールで遊ぶだろう。部屋一面線路を作って、一日中プラレールで遊ぶに違いない。雪の日だから。

 でも、雪が解けたら、電車に乗って出かけよう。いっしょに。

 きっと、息子は目をきらきらさせて、電車に乗るに違いない。





  「雪予報」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

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