第111話 ねこねこ日記(12)【こくに④】

 教えてくれたらよかったのに!

 ぼくはイライラしながら、落ち葉の中を駆け抜けた。


 まだ暑いころ、ぼくはおいしいものをくれるウッドデッキのおうちに、獲物を届けた。かっこいい、おっきい、黒いあれだ。

 いつもおいしいものをくれるから、ありがとうって気持ちで。

 でも、ニンゲンはあれをしばらくそのままにしていて、かりかりをくれなかった。


 お出かけしているのかな?

 ニンゲンはときどき、お出かけをして家にいないことがあるから。

 なんて思っていた。

 でも、どうやらニンゲンは家にいて、あれはそのままになっていた。

 どうしたんだろう? とずっと思っていたんだ。

 気にしていたら、いつの間にかあれはなくなっていたんだ。


 そのことをこくいちに話したら、以前くろ父さんがぼくと同じことをしたんだよって、それでニンゲンはあれが嫌いなんだよって、言った。

 どうして早く教えてくれなかったんだろう。

 ぼくは泣きたい気持ちをこらえて、樹の下に座り、身体を舐めた。

 ぼく、嫌われちゃったら、どうしよう。

 ぼくはあのうちが大好きなんだ。



 あの夏の終わり、ぼくはそんなふうに暗い気持ちになっていた。

 でも、大丈夫だった、よかった。

 あのあと、ニンゲンはおいしいものをちゃんとくれる。よかった!


 最近のぼくはガラス戸の向こうの探険が趣味なんだ。

 ニンゲンは相変わらず「うちの子にならない?」と言う。そうして、ガラス戸をちょっと開けてくれる。

 ぼくはそうしたら、中に入ってみることにしているんだ。


 なんかね、あったかいんだよ。

 ぼくは少しずつ探険の範囲を広げて、ガラス戸から見えないところにも行くことにしている。

 金色の目でいろいろ見る。あっちはどうなっているんだろう?

 ふと、ニンゲンにあまりに近づき過ぎて、びっくりして逃げちゃうこともある。

 でもぼくはめげずにまたガラス戸の向こうに行くんだ。


 ……あ! こんなところにかりかりが!

 ねえ、ぼく、もうちょっとかりかり食べたいよ。

 ぼくはかりかりの袋をかりかりする。

「こくに? 食べたいの?」

 うん、そう!

 そうして、お腹もくちくなったら、ぼくはまた外に遊びに行くんだ。





  「ねこねこ日記(12)【こくに④】」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

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