第103話 火球
朝、学校に行こうと思ったら、火球が見えた。テレビや動画でなら見たことあるけれど、実物を見たのは初めてだった。あまりにくっきりしていたので驚いて見ていると、どうやら近くの公園に落ちたようだ。僕は駅に向かうのをやめて、公園に立ち寄ることにした。
公園の砂場の辺りに煙が上がっているように見えた。近づいて見てみると、黒い、野球のボールくらいの黒い塊があった。
隕石?
僕はそっとその黒い塊に触れた。ちょっと熱かったけれど、持てないほど熱くはなかった。思い切って黒い塊をハンカチに包んで、制服のポケットに入れた。ポケットはほんのり温かくて、カイロを入れているみたいだった。寒いからちょうどいいや。
遅刻ぎりぎりで学校に着いた。
「おはよう、陽太。珍しいね、ぎりぎりなんて」
「ちょっと寄り道していたから」
「国語の小テストの勉強した?」
「してない」
「俺も」
僕は北斗といっしょに漢字のテキストを開いて勉強をしようとした。でもその瞬間に担任の先生が入って来たので、僕らは自分の席に着いた。
席に着いて、先生の話を聞きながら僕は制服のポケットに手をやった。もうカイロみたいに温かくはない。――あれ? 隕石がない。
僕は触れると思っていた隕石がなくて、ポケットの中をごそごそと探った。隕石を包んでいたハンカチがあった。ハンカチの奥に――何か、ある。……動いている?
こっそりとポケットの中を覗くと、親指くらいの大きさの、つるんとした光沢ある緑色の人がもぞもぞとしていた。「やあ」とその緑の人は言った。実ににこやかに。
「えっ⁉」
思わず声が出てしまった。
「どうした? 飯田」
「いえ、なんでもありません」
僕は嫌な汗をかきながら応えた。
ホームルームが終わるとすぐ、僕はトイレに行った。ポケットから親指くらいの大きさの光沢のある緑色の人をつまみ出す。
「やあ」とその人は言った。よく見ると、光沢のある緑色は宇宙服みたいな感じで、顔はふつうの人間の顔をしていた。……ちょっと爬虫類っぽいけど。
そして高くて細い声をしていた。
「ねえ、キミ、誰?」
「兎座のR星の人間だよ。兎座のR星から一人旅して地球に来たんだけど、宇宙船が壊れちゃってさあ、不時着したんだよね」
「宇宙船?」
「そう。大気圏突入するバリアが壊れちゃったんだよね」
「ああ、それで火球になったの?」
「そうそう」
「最近火球が多いのは、もしかしてみんな宇宙船なの?」
「たぶんね。いま、あのあたりの星では地球に行くのがブームなんだ」
「そうなの?」
「そうだよ! 翻訳機も完璧でしょ?」
そうだ。うっかりしていたけど、宇宙人とふつうに日本語で話していた。兎座R星人はえへんと胸を張った。
「いま、地球、ブームなの?」
「そうだよ」
「そんなにたくさん、宇宙人、来ているんだ」
「まあね」
「ねえ、地球で何しているの?」
「それはね」
そう言うと、兎座R星人は目を見開いて、にやりと笑った。そして、あっという間に僕の耳の穴に入り込んだ。痛いとか思う暇もなかった。
「ボクらはこうして寄生して生きる生き物なんだ。地球人は居心地がいいって有名なんだよね」
頭の中で兎座R星人の声が響いて、そして僕の意識は遠くへ行った、深い深いところへ。
*
「ねえ、陽太、さっきどうしたの?」
陽太が教室に戻ると、北斗が心配そうに言った。陽太はにっこりと笑って応えた。
「ああ、なんでもないよ。ポケットの中にゴミがあってさ。でも捨てたから大丈夫!」
「火球」 了
*ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。
1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。
毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!
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