第101話 ねこねこ日記(11)【こくいち③】
あのね、くろ父さんから聞いた話なんだけどね、
ニンゲンって、あれが嫌いなんだって。黒くて素早く動く、あれ。飛んだりもするやつ。
あんなに面白い獲物はないのに。
くろ父さん、ある日、ニンゲンが毎日おいしいものくれるから、お礼に、捕まえたでっかい黒いあれを餌入れに入れておいたの。ありがとっていう気持ちで。
まだちょっと生きていて、脚がちょっと動いているから、そこがまたいいって思ってたってくろ父さんは言っていた。
あれを餌入れに入れて、くろ父さんは緑の陰に隠れて、ニンゲンが喜ぶのをこっそり見ていたの。わくわくしながら。
そうしたら、朝、シャッターを開けてガラス戸を開けて、餌入れの中のあれを見たニンゲンは、一瞬すごい顔をして、そのままぽーんと、黒いあれを庭に投げ捨てたんだって。
え‼
くろ父さんはびっくりして、それはそれはびっくりして、ニンゲンの顔と投げられてしまったあれを何度も見て、それから急いで投げられてしまったあれを捕りに戻った。
喜ぶと思ったんだ……
と、くろ父さんは言っていた。
でも、一回目のときは、もしかして分からなかったのかな? と思ったそう。
そして、翌日、またトクベツでっかくてかっこいい、ちょっと動いている黒いあれをまた、餌入れに入れておいた。そうして、今度は近くでニンゲンを待っていた。
ニンゲンはまたぽーんとそれを遠くへ投げてから、くろ父さんの顔をじっと見たの。
くろ父さんはやっぱりびっくりして目を見開いて、投げられた方をじっと見た。でも、今度はあれを追いかけたりせず、ニンゲンの方に向き直った。
「くろ。ありがとうっていうのは分かったから、あれは要らないわ。……分かった?」
……分かった。
「お礼はなくて大丈夫よ。毎日顔を見せてくれるだけで。ね?」
くろ父さんはさみしく思いながらも、ニンゲンが、あたしたちが捕まえたら自慢にするあれのことを嫌いだってことが分かったって、言ってた。
そっかー、ニンゲンはあれが嫌いなんだ。それも、ものすごく。
これは、あたしがニンゲンにあれをプレゼントしようとしたときに、くろ父さんがやめとけって言って、教えてくれた話。
喜ぶと思ったんだけどな。
あたしは庭を散歩しながら、いろんな動くもので狩りをして遊んだ。
狩りは、こくに兄ちゃんの方が得意だ。獲物に瞬時に飛びつける。
この間、こくに兄ちゃんは黒いあれを捕まえて得意そうにしていた。でっかいぞーって言って。
……ニンゲンにあげてないよね?
「ねこねこ日記(11)【こくいち③】」 了
*ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。
1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。
毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます