第95話 朝起きたら誰もいなかった

 土曜日、昼過ぎまで寝ていた。


 起きたら、妙に静かで、わたしはそっとリビングに下りて行った。

「哲也? ――蓮? 翼?」

 いつもはうるさいほど賑やかなリビングはひっそりと静まり返っていて、かさとも音がしなかった。「哲也? どこにいるの?」わたしは夫の名前を呼びながら、トイレや浴室にも行った。けれど、誰もいなかった。


 わたしは家中を探して、そして誰もいないことを確認すると、ソファにぼすんと座った。

 ――誰もいない。

 休日の昼間、家には誰もいない。わたし一人だけ。

 夫も、小学三年生の連も小学一年生の翼もいない。……どこに行ったのだろう?

 リビングを見渡すと、金曜日に散らかしたままの室内だった。ランドセルは転がり、ノートも落ちていた。食卓の上には夜に飲んだカップがそのまま残されていた。夜の洗い物も半分しかしていなくて、鍋なんかはそのまま残されていた。


 でも、カーテンは開いていて、明るい日差しがリビングに満ちて、とてもいい気分だった。

 わたしは片付けをしようかなと一瞬思ったあと、すぐにその考えを捨てた。

 せっかく一人なんだもの。好きなことをしよう!


 わたしはテレビをつけて、サブスクで映画を探した。子どもたちがいると、自分の好きな映画は観られない。ホラーにしよう、ホラー! すっごく怖いやつ! 

 わたしは絶対に怖いホラーを選び、次に映画を観るための準備をした。

 お酒飲んじゃおうかなあ、昼間っから! おつまみはチーズでいいかな?


 テーブルに、チーズとおいしいチョコレートと、それから缶チューハイを置いた。

 ソファに座り、映画を観る。一人だから、誰にも邪魔されない。話しかけられない。「そんでこれ、どういう話?」とか言われない。「ねえ、ちょっと来て、いいから来て!」とか言われない。「ねえ、鉛筆どこにあるの?」とかも言われない。サイコー!

 ふう。

 一人でお酒飲んでおつまみ食べて、ホラーを満喫する! 楽しい!


 お腹空いちゃったな。そう言えば、ごはん食べていなかった。……カップラーメンあったかな? あったあった! カップラーメンでいいや。子どもたちがいると、食べづらいんだよねえ。ああ、幸せ!

 次は何を観ようかな。ホラー観たばかりだから、コメディがいいかな。ああでも、どうせなら、奴らが観ないものが観たい! そうだ、恋愛ものにしよう。恋愛恋愛。

 よし、これ。


 ああもう夕方になってきちゃった。どうかまだ帰って来ませんように!

 ……あれ? そう言えば、どこに行ったんだろう? 一人が嬉し過ぎて、心配するのを忘れてた。……スマホスマホ……なんだ、LINE来てた。……おばあちゃんちに行くね、よく寝ているから起こさずに行くねって。うん、ありがとう! ……え? 泊まりなの? じゃあ、今日帰って来ないの? きゃー! 嬉し過ぎる! 何しようかな?





  「朝起きたら誰もいなかった」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

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