第85話 「みんライ」
フルダイブ型VRゲームもごく一般的な遊びとなった。対戦型ゲームが主流だが、そうでないものもある。例えば「みんなつくろう! ほのぼのライフ」、略して「みんライ」だ。「みんライ」はバーチャル空間で生活し、自分らしく楽しく暮らしていくゲームだ。行動の仕方で、どのような生活空間になるかは異なる。多彩なバージョンが用意されていて、対戦型ゲームが苦手な人やバーチャル空間でまったりした人に、密かに人気のゲームだった。バーチャル空間で、自分なりに楽しんでいくゲームなのである。
最初に、初期型の土地と家、それから初期費用が与えられる。そこからさまざまな方法で土地や家を自分なりに改良したり、自分のレベルアップをしたりして、自分空間をつくりあげていくのだ。まったりほのぼのしていて、僕はこのゲームが大好きになり、どっぷり「みんライ」にはまりこんでいた。
ぼくは、「魔法の森」に住む場所を決めた。魔法に憧れていたからだ。ぼくはレベル1の白魔法使いになった。「みんライ」に入っては、レベルアップにいそしむ日々。
あるレベルまで達したころ、ふと見ると最初に撒いた野菜が育っていた。花も育っていた。市場で売れるらしいので、ぼくは露店で野菜と花を売ることにした。
思わぬ高値で売れ、ぼくは嬉しくなった。どうも、白魔法使いのレベルアップをしていたことが、野菜や花の生育にいい影響を及ぼしたらしい。野菜は栄養価が高く、花は瑞々しく切り花でも長い間枯れなかった。
ぼくは野菜や花を売ったお金で、まずソファを買った。それからリビングに、ちょっといいテーブル一卓とイスを二脚置いた。窓にはかわいいカーテンをつけたし、ティーセットやお皿もそろえた。育てた花も飾った。
初期型から自分仕様に変えた部屋を見て、ぼくは嬉しくなった。
紅茶を淹れようかな、と思っていたとき、扉がノックされた。誰だろう?
扉を開けると、そこには美少女がいた。ふわふわの水色の髪には、小さなピンク色のリボンがたくさんついていた。白い肌にはほんのり赤みがさして、大きな薄紫の瞳はきらきらと輝いてた。砂糖菓子みたいな女の子!
「あの、お花が欲しくて」
「花?」
女の子は庭先に生えている花を指さした。
「どうぞ」
ぼくは花を何本か切って、女の子に差し出した。
「ありがとう……! 嬉しい。……あの、あたし、ヴィ。あなたは?」
「ぼくはレンだよ。――ねえ、紅茶、飲む?」
「飲みたい! あ、あのね、少し待っててくれる? あたしの家、すぐ近くなの。家にケーキがあるから、持って来ていい? あたしがつくったの!」
ヴィは本当にすぐ戻ってきて、ぼくは紅茶を淹れた。ぼくたちはアールグレイとアップルパイを二人で楽しんだ。ぼくたちはレベルが同じくらいの白魔法使いだった。レベルアップの仕方とか市場のこととか、ぼくたちはいろんな話をした。
「レンの髪、きれい。真っ白な雪の色。瞳は小麦色なのね」
「ヴィもすごくかわいいよ。ふわふわで」
ぼくたちは顔を見合わせて笑った。
ヴィ。ぼくのはじめての友だち――嬉しいな。
「『みんライ』」 了
*ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。
1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。
毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!
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