第84話 ラクダのお父さん

 ぼくはラクダのお父さん。


 お父さんだから、ネクタイしてカバンを持って、会社に行くよ。それがお父さんだからね。

 ラクダの国は砂漠だから、ぼくは砂漠をずっと歩いて会社に行くんだ。

 すごいんだよ!

 砂漠は、ラクダのお父さんでいっぱいなんだ!

 みんな、ネクタイをしてカバンを持ったラクダなの。

 もちろん、お母さんもいるよ。お母さんはネクタイじゃなくて、リボンをつけているから、すぐに分かるんだ。

 お父さんもお母さんもみんな頑張って働いているんだ。


「今日は暑いですねえ」

「砂漠だからねえ」

 ラクダのこぶの水は自分では飲めないなら、カバンから水筒を取り出して麦茶を飲む。暑いときは麦茶なんだ。

「あ。いつも息子がお世話になっています」

「いえいえ、こちらこそ」

「今度、いっしょにピクニックに行くって言っていました」

「ええ、聞きました」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ」

「そのピクニックですが、うちもごいっしょ出来ませんか?」

 ラクダのお母さんが話に加わって来た。赤いリボンをした、となりのラクダさんだ。


「ぜひ!」

「娘が喜びます。実は、うちのこ、お宅のらくちゃんが好きみたいで!」

「えっ。そうなんですか?」

「そうなんですよう」

 お父さん二人とお母さん一人で、ふふふと笑い合った。

 砂漠の中を歩くのは大変だし、ラクダでぎゅうぎゅうだから快適じゃないけれど、会社へ行くまでの道のりには、こういう楽しいこともある。

 週末のピクニック、らくはきっと楽しみにしているし、そして当日はとても楽しいんだろうな。

 想像したら、今日も一日頑張れそうな気がしてきた。

「それにしても、暑いですねえ」

「砂漠ですからねえ」

「麦茶は必須ですねえ」

 ラクダのお父さんはネクタイをして、お母さんはリボンをして砂漠をかっぽかっぽしてく。

 今日もいい一日だといいな。





  「ラクダのお父さん」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

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