第83話 口笛と予言

 口笛をうまく吹けるようになり、ソウタは口笛を吹きながらはりきって学校へ向かった。最近流行りの曲を口笛で吹くと、なんか大人になったような、誇らしい気持ちになった。ランドセルの群れを足早に通り過ぎ、口笛を聞かせる。みんなおしゃべりに夢中だけど、オレの口笛も聞こえたはず! かっこいいよね!


 昇降口で慌ただしく靴から上履きに履き替えて、クラスへ向かう。

「おはよう!」

「おはよ、ソウタ!」

 ランドセルをロッカーに入れて、コウキたちの輪に入る。みんな、何かを見せ合ってる。作文?

「あ! やべ。オレ、作文、やってねえ」

「今日までだよ」

 サラがそう言って笑う。

 コウキも「俺もやってね」と言って、「まあいいか」と笑ったので、オレも笑っておいた。

 オレたちはよく宿題忘れるんだ。それにオレは昨日、口笛がうまく吹けるようになって、いろいろ練習していたから作文どころじゃなかったんだよ。


「ねえねえ、サクラちゃんの作文がすごいんだよ!」

「へえ?」

「サクラちゃん、ソウタたちにサクラちゃんの作文、見せていい?」

 サラが言うと、サクラはちょっと恥ずかしそうにしてこっくりと頷いた。

 サクラちゃん、すげーかわいいー!

 オレは胸がばくばくした。サクラちゃんはこのクラスで一番かわいい女の子だ、とオレは思っている。

 サクラは、まっすぐの長い髪を揺らして「そんなすごいものじゃないけど、読んでいいよ」と言って、ソウタに作文を渡した。


『未来のおもちゃ  上杉桜

 わたしは近い未来、テレビ電話が出来るようになると思います。そして、遠くにいる人とも顔を見てお話出来るようになります。

 また、テレビも電話もテレビ電話も、そしてカメラもゲームも音楽も、みんな一つの小さな機器に収まり、持ち運べるようになります。わたしたちは、その小さな機器で色々なことをして楽しみます。わたしたち子どもにとっては、とても楽しいおもちゃになると思います。それ一つあれば、テレビを見ることが出来るし写真を撮ることも出来るし、ゲームだって出来るのです。好きな音楽をいつでも聴くことが出来ます。

 そして、きっと作文などの宿題もなくなります。この小さなおもちゃが作文も考えてくれるし、宿題の答えも教えてくれるのです。わたしは早くこの小さなおもちゃを手にしたいと思います。』


「すっげー! じゃ、オレ、作文の宿題しなくていいんだ!」

 ソウタが興奮して言うと、サラが「サクラちゃんの未来のおもちゃ、まだないよ?」と笑った。

「うわー、すげー残念! オレ、作文嫌いなんだよ」

 ソウタは大げさにわめいた。コウキもソウタと同じように大げさにわめくと、サラとサクラが花のように笑った。ソウタはサクラを見ながら、ああ、サクラちゃん、すげーかわいいー! と思った。


 *


「あのときの作文、まだとってある?」

「どこかにいっちゃったよ」

 奏太に言われ、桜はスマートフォンから奏太に視線を移して言った。桜の顔を見て、奏太はやっぱりかわいいなあ、と思う。


「なあ、桜」

「うん?」

「結婚式、もうすぐだな」

「そうだね」

「……ねえ。桜、超能力者だよね」

「何言ってんの」

「だって『未来のおもちゃ』、すげー当たってたよ」

「偶然だよ」


「オレたちの子ども、男かな? 女かな? 分かる?」

「分かるわけないじゃない! まだ出来てもいないのに。……でも早く子ども欲しいな。奏太との赤ちゃん」


 桜はスマートフォンからハッピーバースディを流した。そして、奏太は曲に合わせて口笛を吹いた。





  「口笛と予言」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

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