第78話 はじまり

 朝の太陽が、マンションをオレンジ色に染める。冬の澄んだ空気が冷たくて気持ちがいい。空は青く透き通っていた。


 ぼくは空を見上げ、そしてまた歩き始めた。

 同じ高校に通う生徒たちがいくつかのグループを作って歩いている。ぼくはひとりで歩く。

 冷たさが気持ちいい。

 おしゃべりをしているグループ、単語帳を片手に歩いていくグループ、男子だけ、女子だけ、男女混じっているグループといろいろだ。

 ぼくはどれにも属さずにひとりで歩く。

 革靴の音が小さく響く。友だちはたいてい運動靴を履いているけれど、僕は高校からは革靴で登校していた。なんかかっこいいと思ったからだ。大人になった気がした。


 友だちがいないわけじゃない。だけど、ぼくはひとりの時間を楽しむことが出来る。だから、ひとりで登校する。

 冬休みを終えて、新学期が始まった。

 新しく始まるものはいい。なんでも。

 高校一年生はまだ続くけれど、年が明けたからまた新しい気持ちで、新しいことを始めてみようかと思う。


「湊、おはよう!」

「おはよう、悠斗」

 校門が見えてきたところで、向こうから来たクラスメイトの悠斗と出会う。

「湊、冬休み、どうだった?」

「んー、ふつう」

「どこか行かなかったの? オレはおじいちゃんちに行ったよ。お年玉、もらえた!」

「今年は行かなかったな。父さんの方も母さんの方も。病気だったりして向こうの都合が悪くて。あ、でも、お年玉はもらったよ。親経由で」

「へえ。……ところで、明日もう、英語の小テストがあるよね」

「うん。勉強した?」

「びみょー」

 悠斗がおどけて言う。


 ぼくは笑いを返しながら、今年は英語をちゃんと頑張ろうと決意していた。

 だから、ぼくはまずは小テストで満点をとろうと頑張った。悠斗が知ったら驚くに違いない。何しろぼくは英語がからきし出来なかったからだ。


 元日に家族で初詣に行って、厳かな気持ちになった。

 おみくじを引いたら中吉で、相変わらずぼくは「普通」なんだという気持ちになった。しかし、「地道に努力すれば運が開ける」と書いてあり、ただ流されているだけでなく、少し頑張ってみようかなという気持ちになったのだ。


 何もせずにいて後悔したくない。

 突然、そういう考えが降ってきた。


 ぼくは新しい気持ちで学校に向かう。今日が新しいぼくのはじまりだ。





  「はじまり」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

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