第69話 真夜中の太陽

 ねえ。真夜中の太陽を見に行かない?

 真夜中に太陽なんて、ないよ。

 それがあるんだよ。北極圏の夏、太陽が沈み切らない日があるんだ。太陽は地平線に沈み切らず、また昇り始める。真夜中にも太陽があるんだよ。

 真夜中の太陽って、どんな感じなんだろう?

 地平線に残ったままの太陽。落ちそうで落ちない位置で光を伸ばす。薄い青色の空。夜なのに、薄く青く白く、世界を包み込む。

 思い出した! それ白夜っていうんでしょう?

 そうだよ。いっしょに白い夜に行こうよ。真夜中の太陽なんて、きっと感動するよ。


 リュウの手がサラサの髪を撫でた。

 リュウとサラサはキスをして、あたたかい布団の中に潜った。


 ねえ、月のない夜をいっしょに散歩しようよ。

 月のない夜を?

 そう、真っ黒の夜を。ほんとうの夜の街を。二人だけで。月も星もない、暗い夜。

 でも、きっとあったかいよ。


 リュウとサラサは笑い合いながら、抱き合った。

 布団の中でお互いがお互いを探る。


 夜は好きだ。

 うん、あたしも夜、好き。ふたりだけの夢を見られるから。ねえ、真夜中の太陽、本当に見に行こう。白い夜の中で光る太陽の輝きを見たい。

 そうだね。でも今日は太陽も月も星もない、暗い夜を二人で漂おう。

 ベッドの上で?

 そう、ベッドの上で。


 くすくすというくぐもった笑い声があたたかく響く。

 二人の香りが混ざり合って、なぜだか空間を越えて、遠くの夜まで届くようなそんな錯覚。


 ここで真夜中の太陽が見られる気がする。

 ここで?

 ぎゅっと目をつぶると、その中に光が生まれない?

 ぎゅっと?

 そう、ぎゅっと。

 地平線を思い描くんだ。どこまでも続く、大地。夕闇の中落ちてゆく太陽。きっとゆっくりのっそり落ちていくんだ。そうして、そのまま沈まない太陽。光が伸びたままの、薄い青白い空。僕たちはそれをいっしょに見るんだ。

 いま、同じ景色を見ているかな、目蓋の中で。

 きっと。そうして、今度、本物を見に行こう。きっときれいだよ。夢のように。


 リュウとサラサは目を閉じて、隙間なく肌を寄せ合いながら、幸せな夢を見た。

 真夜中の太陽は白い夜に光る手を伸ばす、その手を触ろうとした。二人で。





  「真夜中の太陽」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!


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