第65話 青星
青星を頼りに旅をしていた、ずっと。
うつくしい夜空に輝く青い星。薄く瞬きながら、青い光を滲ませる。
シノは歩みを止め、夜空を見上げた。青星を見るために。一面に広がる砂地。微かな風に黄色い砂がさらわれ、弾むように巻き上がりながらシノの後方に流れていく。
シノは、視線を青星から行く手に戻し、重い足を上げた。シノの旅は長く続いていて、その長い行程とこれからもそれが続くことを思うと、思わずふうと溜め息が出るのだった。茶色のマントが風にはためいた。肩に斜めがけした鞄をかけ直すと、シノは何か決意をしたように、ざっざと力強く歩き始めた。シノの後ろには黄色い砂煙がぶわっと広がり、シノの灰褐色のくせのない髪は後ろに靡いた。
シノが一歩いっぽ、砂地を踏み固めるように歩いていくと、左斜め後ろから、同じような足音が聞こえてきた。シノは立ち止まって、音の方を見た。すると、シノと同じようにマントを羽織って歩いている人を見つけた。その人はシノを見るとにっこりして、言った。
「あなたも青星を頼りに旅をしているのですか?」
「はい。ぼくは、シノ。あなたは?」
「ぼくはルルー」
ルルーは長い紺青色の髪の間から、人懐こい笑顔を見せた。シノは久しぶりにほっとした気持ちになって、ルルーと並んで歩くことにした。ルルーからは春に咲く花のにおいがした。砂だらけの場所にあって、その香りはシノの心をやわらかくした。
「あそこで休憩しませんか?」
ルルーが指さす方向にはオアシスがあった。見渡す限り黄色い砂地の中に、まるで孤島のようにこんもりとした緑があり、清らかな水の音もした。
二人は柔らかい緑の草の上に座った。
「食べる?」
ルルーは鞄から取り出した箱を開けてシノの前に差し出した。チーズが入っていた。
「ありがとう」
シノはチーズを一欠片もらい、口にした。シノも鞄に入っていた、硬くてドライフルーツがたっぷり入ったパンを一切れ、ルルーに差し出した。
「嬉しい! フルーツたっぷりのパン、好きなの!」
「どういたしまして。チーズもおいしいよ」
シノは誰かと一緒に食べると、いつもよりずっとおいしく感じられると思った。
「ねえ」とルルーが上目遣いにシノを見ながら言った。
「うん?」
「あのね、誰かと食べるって、おいしいんだね!」
花のように笑う、ルルー。また、春の花のにおいが、甘くふわりと漂った。
「……ぼくもそう思った」
シノはルルーの目をじっと見つめた。ルルーの瞳は夜の青だった。そうして二人はどちらともなく、手をつないだ。手をつないで寄り添って座り、頭をくっつけるようにしてそのまま夜の気配を感じた。あたたかい、とシノは思った。
そのとき、青星がひときわうつくしく輝き、瞬きを見せた。
こんな青星は初めてだ、とシノは思った。そうして、ああ、そうか、旅はもう終わったんだと、気づいた。
「青星」 了
*ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。
1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。
毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!
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