第56話 暴れん坊将軍

 それは白馬に乗ってやってきた。

 白馬に乗ってやって来るものと言えば、暴れん坊将軍。白馬には朱色の房がついていて、当然あの音楽とともに登場する。かっこいい!


「かっこいいねえ、松平健」と言ったら、おばあちゃんに「違うよ、あれは吉宗だよ」と返された。

 おばあちゃんとあたしはこたつに入って、時代劇チャンネルを見ている。

 おばあちゃんもあたしも時代劇が大好きで、あたしは休みのたびにおばあちゃんといっしょに時代劇チャンネルを見るのだった。朝から晩まで時代劇。楽しい。


 おばあちゃんは独り暮らしをしている。

 あたしは休みの日にはいつもおばあちゃんちに行く。そうして、いっしょにごはんを食べたりお茶を飲んだりしながら、テレビを見るのだ。

 時代劇の中でも、おばあちゃんが特に大好きなのは暴れん坊将軍だ。おばあちゃんの中ではあれは松平健ではなく、あくまでも徳川吉宗らしい。おばあちゃんは徳川吉宗に恋をしている。


 あたしはおばあちゃんちが好きだった。

 小学校や中学校の頃、あまり学校に行きたくなくて、ときどきおばあちゃんちに来ていた。おばあちゃんに学校へ連絡してもらって、一日おばあちゃんちでゆっくりすると、また元気に学校に行くことが出来た。……母親にそれがばれて怒られたことがあって、おばあちゃんにも迷惑をかけたことがあった気がする。それでもおばあちゃんは、あたしの頭を撫でて「いつでも来ていいんだよ」って言ってくれた。

 高校くらいからは、自分のことで手一杯になっておばあちゃんちにあまり来なくなった。でも、大学を出て就職をしてから、またおばあちゃんちに来るようになった。


 あたしはおばあちゃんが大好きだ。

 おじいちゃんを早くに亡くして、でもおじいちゃんのことがずっと好きで、あたしはいつも「おじいちゃんはこんなふうに素敵なひと」っていう話をたくさん聞かされた。おじいちゃんはおばあちゃんにとって、「暴れん坊将軍」みたいなひとだった気がする。


「ねえ、おばあちゃん」

「なんだい?」

 おばあちゃんはテレビ画面から目を逸らさずに応える。

「あたし、ここに住んでもいいかなあ」

 ずっと思っていたことを聞いてみる。あたし、おばあちゃんといっしょに住みたいな。

「いいよう」

「ほんと?」

「うん。だって、いっしょに暴れん坊将軍、見てくれるんだろ?」

「うん、見る見る! 必殺仕事人も!」

「いいねえ」

「いいねえ」

 おばあちゃんはあたしの顔を見て、にっこりと笑った。





  「暴れん坊将軍」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

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