第54話 くまとなつ

「ぼく、思うんだ!」

「何を?」うさこが眠そうに言った。

「『こんとあき』でさ、こんはあきといっしょに列車の旅に出たじゃない? だからぼくも行こうと思うの。なっちゃんと!」


「でも、きみにはこんみたいに、素敵な名前、ないじゃない」ダックスフンドが冷たく言う。

「でもでも、ぼく、ちゃんと『くまさん』って呼ばれているもん!」

「それはきみの名前じゃなくて、種族名だよね?」ダックスフンドはどこまでも冷たい。


 ぼくが泣きそうになっていると、へびさんが「まあまあまあ、でも、なっちゃんがくまくんのことを一番好きなのはほんとうじゃない?」と言った。

「そうねえ、ベッドでいっしょに眠るのはいつもくまくんだしね」うさこがほとんど眠りながら言った。

「けっ。くまが抱き心地いいんだろっ」とダックスフンドは吐き捨てるように言う。

「まあまあ、ダックスくん。きみもいっしょに眠りたいんだよね?」

 へびが言って、ダックスフンドは涙をためて、そっぽを向いた。

 そして、「確かに、なっちゃんは、くまが一番好きだよなっ」と言った。


 ぼくたちはなっちゃんのぬいぐるみ。

 そして、なっちゃんのことをすごく心配してるの。

 なっちゃんはね、今日もしくしく泣きながら寝ちゃったんだよ。

「ままに会いたい」って。

 なっちゃんのままはいま、遠くにいるみたい。遠くの、おばあちゃんち。

 なっちゃんが泣くと、ぼくもうさこもへびくんも、ダックスくんだって、ほんとうに悲しい気持ちになるんだ。


 ぼくたちは相談して、夜のブルートレインに乗ることにした。まつよいぐさの中を走るんだ。おもちゃ専用の列車なんだけど、なっちゃんはまだ小さいから乗れるはず。


「なっちゃん、なっちゃん、起きて」

「くまさん、なあに?」

「『こんとあき』みたいに、列車に乗りに行こう。ままに会いに行こう!」

「え! ほんと? ままに会えるの?」

「うん、会えるよ! 旅のお支度をしてね。ブルートレインに乗るから」


 なっちゃんは、ピンクの小さな肩かけかばんにお気に入りのビー玉とこの間初めて一人で折ったつるを入れた。それからお着替えをして、「できたよ!」とにっこり笑った。


 ぼくたちはみんなで、バス停でブルートレインを待った。

 ここは、いつもはふつうのバス停だけど、今夜はブルートレインが来るはずなんだ。だって満月の夜だから。満月はまつよいぐさの黄色なんだ。

「あ! 来たよ、ブルートレイン!」

 なっちゃんが言って、ぼくたちもそっちを見た。


 ぼくはなっちゃんといっしょにブルートレインに乗った。

 うさことへびくんとダックスくんは「がんばれ」って手を振ってくれた。

 うん、ぼくがんばるよ! こんみたいに、ちゃんとなっちゃんを連れて行くんだ。

 こんはあきをおばあちゃんのところに連れて行ったけど、ぼくはままのところに連れて行くの。


 黄色いまつよいぐさの中をブルートレインは走る。そしてままのところに行く。

「まま!」

「なっちゃん、どうしたの?」

「まま、なっちゃん、ままに会いたかったの」

「まあ」と言って、ままはなっちゃんをぎゅっと抱きしめた。宝物みたいに。

「じゃあね、いっしょに赤ちゃん来るのを待ちましょう」

「うん!」

「あら、くまさん連れて来たの?」

「ううん、ちがうよ。くまさんがなっちゃんを連れて来てくれたんだよ」

「ありがとう、くまさん。……ところで、くまさん、名前なんて言うの?」

「『くまさん』が名前だよ!」


 ぼくはとっても嬉しくなった。

 名前で呼ばれてたんだね。 

 


   「くまとなつ」了


参考図書

『こんとあき』林明子(福音館書店)

『おやすみブルートレイン』松澤睦実(フレーベル館)


*ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!


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