第47話 面談
先生が、わたしをまっすぐに見て言った。
「このままでは推薦は厳しいですね」
わたしは目の前が真っ暗になった。
「ど、どうしてですか?」
駄目だ、どもってしまう。でも、息子の隆久の人生がかかっている! 頑張らねば。
「今回のテストの結果、内申点が一ポイント下がったんです」
「たったの一ポイントで……!」
「一ポイントは大きいですよ。推薦には最低四〇必要ですが、隆久くんは四〇ぎりぎりしかありません」
「でも、最低ラインを越えているのなら」
「そこに何人もいるんです。例えば、英検準一級以上持っているとか、そういうものがないと」
隆久は英語が苦手だった。それに今から英検を受けても間に合わない。
「あの、隆久、いい子なんです! よろしくお願いいたします」
わたしは先生の目をじっと見て言った。
……隆久の担任はわたしよりも五歳くらい若く、独身だった。独身ゆえか、年齢より若々しく見えスーツもおしゃれで、わたしは先生の顔を見るたびに、実は顔が赤らむような胸の高鳴りを覚えていた。
「……面談の時間は一人十五分なんです」
先生もわたしの目をじっと見て、言った。そしてわたしの手に四つに折った紙きれを渡した。
「これは?」
「僕の個人的な連絡先です。よろしければ、ご連絡ください。……ただ、こういうやりとりは禁止されているので、内密に」
先生の手がわたしの手に触れ、電気が走った、と思った。
「……はい」
「お会いしたとき、また隆久くんのことをお話しましょう。何か出来ることがあるかもしれません」
「……はい……! 分かりました。必ずご連絡させていただきます」
隆久のためだ。隆久の推薦のためだ。
「では詳しくはその折に」
「はい」
今日わたしは、どんなふうに見えただろう? アイメイク、滲んでいなかったかしら。今度はどの服で行こうかしら。学校に行くときはいつもスーツを着ているから、少しカジュアルな感じにしようかしら。髪はアップにしないで、下ろそう。ちゃんと、ヘアアイロンをして。少しカールさせよう。……それより、美容院予約しよう。その方がいい。
わたしはお辞儀をしてから先生の目をじっと見た。先生はにっこりと笑った。わたしも笑顔を返した。そうして学校を出るとすぐに、美容院に電話をした。
「もしもし? あの、予約を入れたいのですが」
「面談」 了
*ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。
1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。
毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!
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