第41話 ねこねこ日記(5)【こくに②】

 ぼく、来たよー!

 かりかりとガラス戸をひっかく。

「こくに! 来たの?」

 ニンゲンはすぐ気づいてくれる。


 ぼく、知ってるんだ。テレビがついているときはニンゲンがいるって。家の中から気配がするときも、いるなって思う。そういうときは、かりかりってやって、ぼくがいることを教えてあげるんだ。ニンゲンも嬉しそうにやってくるよ。


「こくに。今あげるからね」

 うん、ぼくお腹空いているから、早くちょうだい。

「こくには、かりかりたくさんがいいんだよね」

 そうそう。ぼく、いっぱい食べるんだー

「今日ね、朝、くろが来て、それからこくいちとみけが来たんだよ」

 あ、そうなんだ。最近、ぼくはひとりのことが多いんだ。こくいちとみけはよくいっしょにいるみたいだね。


「くろ、足、大丈夫かなあ」

 くろ父さんは大丈夫って言ってたけど……。

「足、痛そうなんだよねえ」

 ぼくもちょっと心配なんだ。

「ねえ、くろにまた来てねって、言っておいてね」

 うん、そうするよ。ちゃんと食べないと、怪我も治らないからね。


 さて、と。

 今日はどこに行こうかな。

 ――ガラス戸の中をちょっと見る。

 ニンゲンは「入っておいで」と言う。「うちの子になって」と言う。

 でも、ぼくたちはそういうの、よく分からないんだ。

「あったかいよ」「いつもお腹いっぱいだよ」

 うん、でも、ぼくはひとりで歩いていきたいんだ。


 あたたかそうな室内をもう一度見る。

 そうして、くるっと向き直り、元気よく冬の世界に駆け出した。

 今日は特別に寒い気がするなあ。どこかあたたかい場所、探さなくちゃ。お日さまが当たっているときはいいけれど、夜はもうかなり寒いからね。白いおうちの寝床かなあ、やっぱり。


 ぼくたちは生まれたときからひとりで歩くよう教えられてきたし、自由に世界を歩いて生きている。そういうタイシツなのだと思う。

 いつか、おうち猫になって、ぬくぬくした生活を送りたくなるかもしれない。

 でも、今のところは、このままがいいな。


 だからさ、とりあえず、またおいしいもの、ちょうだいね!

 くろ父さんにもちゃんとあげてね。





  「ねこねこ日記(5)【こくに②】」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る