第39話 龍神さまの湖の国
神の山のふもとに清らかな湖があっての、その湖は龍神さまに護られておったんじゃ。龍神さまがその長い身体でぐるりと、湖をしっかり取り囲んでいたんじゃよ。そしての、その湖は水妖人の棲みかだったんじゃ。水妖人は魚の尻尾を持つものや魚の頭を持つもの、或いは体中が鱗に覆われているもの、さまざまな種族がいての、それはそれは平和に湖の中の国で暮らしていたんじゃよ。
「へえ。水の中に国があったんだ」
そうじゃ。そこは龍神さまの湖の国と呼ばれておっての、人間は決して立ち入ることの出来ない神域だったんじゃよ。そこで、美しい水妖人は豊かにのびのびと暮らしておったんじゃ。桃色の水妖人もいたし緑色の水妖人もいた。虹色に輝く水妖人もいて、人間はときおり、その鱗を湖のそばで拾うことが出来たんじゃ。それはそれは高く売れたのじゃよ。
「鱗が?」
そうじゃ。
しかしの、それが悲劇の始まりだったんじゃ。美しい鱗を、もっともっと欲しい、もっともっとたくさん手に入れて
「でも龍神さまに護られていたんでしょう」
そうじゃ。じゃがの、呪いの力で龍神さまを弱らせ、結界を破った人間がいたんじゃ。龍神さまは深く傷ついて、湖の底に沈みこんだ。そうして湖には欲に目がくらんだ人間どもがずかずかと入って来たんじゃよ。美しい水妖人の国は欲深い人間たちに荒らされたんじゃ。鱗を剥がれて傷ついた水妖人が流した涙が宝石となっての、それがまた人間どもを喜ばせたんじゃ。水妖人はそうして、鱗を剥がれるだけでなく、生きたまま捉えられ、宝石の涙を流すまで拷問されたり弄ばれたり、或いは見世物にされたんじゃよ。
「ひどい……!」
ほんとうにあれは酷く
「それでどうなったの?」
水妖人たちの祈りは龍神さまの呪いを解き、力を与えたのじゃ。
一匹の龍が天に向かってまっすぐ昇って行ったかと思うと、空はみるみるかき曇り雷が轟き嫌な強い風が吹き、激しい雨が降り注いだのじゃ。雷は欲深い人間を焼いた。そして人間が湖に来る道も焼いた。そうして、龍神さまの湖の国には再び平和が訪れたんじゃ。
「ああ、よかった。……あれ? 人間に捕らえられた水妖人はどうなったの?」
だいたいは死んでしまったのう。
「かわいそうに」
だけどの、一部生き残った水妖人もいるんじゃよ。心優しい人間にたすけられての、生き延びたんじゃ。そうしての、人間とともに暮らしたんじゃよ。子を成して共に育てて。ほら、お主のお腹に赤い痣みたいなものがあるじゃろう? それは水妖人の鱗の名残りなんじゃよ。
「龍神さまの湖の国」 了
*ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。
1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。
毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます