第37話 夢アプリ

 昨日は夢を見なかった。


 というか、もうずっと夢を見ていない。

 僕たち人間は夢を見なくなって久しい。

 記憶することをAIに任せ、考えることもAIに任せていたら、夢を見ることもなくなっていった。夢を見て記憶を整理する必要もない。


 夢ってどんなものなんだろう? 夢について語りたくても、概念としての夢そのものを知らない人間も多い。

 僕はセントラル図書館で夢に関する本を読むことが増えた。寝ている間に、もう一つの世界を生きているかのような感覚。


「ねえ、エリー。どうやった夢を見ることが出来るかな」

「夢アプリを使ったらどうでしょう?」

「夢アプリ?」

 スマートウォッチの画面が変わり、「夢アプリ」と表示された。

「夢を見たいという要望に応え、開発されたアプリです。夜眠る前にセットすれば、脳波に刺激が伝えられ夢を見ることが出来ます」

「へえ。……いろいろな種類があるね」

「お好きなものをお選びください」


「日常のものから、ファンタジックなものまであるね。どれがいいかなあ。……恐竜が出て来るものにしようかなあ」

「人気の高いコンテンツです」

「じゃあ、恐竜で」

「恐竜のファイルナンバー01でよろしいでしょうか」

「うん」

「睡眠導入アプリに続けて、夢アプリをセットしますね」

 僕はそうして眠りに落ちた。


 そして、トリケラトプスやティラノサウルスが出て来る夢を見た! ダイナミックで迫力満点だった。臨場感があり、僕はトリケラトプスと仲良くなったり、ティラノサウルスからトリケラトプスの子どもをたすけたりした。土のにおいや緑のにおいまで濃く感じた。汗をかいたり砂まみれになる感触まであった。全力で駆けたりジャンプしたり。朝起きた瞬間、僕はうまく現実が理解出来ないほど、恐竜の世界にはまり込んでいた。


「おはようございます」

「おはよう、エリー」

「夢アプリはいかがでしたか?」

「すごくよかったよ! 今日もまた夢アプリ、使いたい。すごくおもしろかった!」

「かしこまりました。今日は恐竜のファイルナンバー02にしますか?」

「うん、続きが見たい!」


 僕は夢の世界を思ってわくわくした。夢アプリ、なんて素晴らしいのだろう? 現実の世界よりも、夢の中の方がずっといい。

 明日も明後日もその先も、夢アプリで夢を見ていたい。

 夢アプリはきっと流行る気がする。




  「夢アプリ」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る