第21話 ねこねこ日記(3)【みけ①】
ニンゲンがなかなか来ないから、こくに兄ちゃんがガラス戸をかりかりってやった。そうしたら、やっと来て「あ! 来てたの~」と言うの。あたしたちの朝は早いんだよ。もう、ずっと待ってたんだから!
三匹でしっぽをぴんと立てながら、ガラス戸のすぐそばでじっとニンゲンを見る。
「ほら、牛乳だよ~」と紙パックを見せてくれるので、わくわくする。
命の水だ!
あたしたちはこの命の水が欲しくて、この家に来ている。なかなか命の水をもらえるところ、少ないんだよね。
「今日は三匹いっしょなんだね」と言いながら、ニンゲンは二皿にかりかり、二皿に命の水を入れる。
でも、まず食べるのはこくに兄ちゃんに決まっている。
あたしはこくに兄ちゃんが食べるのをじっと見ていた。
そうしたら、ニンゲンが「今日はお皿、多いよ」と言うので、そーっとこくに兄ちゃんの横に並んで命の水を飲んでみたの。こくに兄ちゃん、怒らない! やった!
あたしは命の水をぺろぺろと飲む。ああ、おいしい! 生き返るみたい! ああ、一皿じゃ足りないわ、もう一皿も舐めちゃおう。
そうしてあたしとこくに兄ちゃんががつがつしている後ろで、こくいちはそっと待っていた。大丈夫よ、こくいち。ニンゲンはちゃんとお代わりをくれるから。
ところが、あたしとこくに兄ちゃんがひと段落したところで、お父さんのくろが現れた。お父さんはもうだいぶ年をとっていて、どっしりとしていて貫禄がある。くろ父さんが来ると、みんなお父さんが食べるためにさっとその場をどいた。でも、おはようのあいさつはする。みんなでお父さんと顔をこすり合わせるのよ。くろ父さん、なんとなく、久しぶり! ふふ。
そうしてくろ父さんが残りをがつがつ食べ始めたので、あたしたち兄弟はとりあえず遊びに行くことにしたの。こくいち、また戻ってくればいいよ!
くろ父さんは、最近はじっと眠っていることが増えた。いっしょに遊びに行かなくなってしまった。たぶん、今日はあのウッドデッキのソファでしばらく眠ったり、気が向いたらかりかりを食べたり命の水を飲んだりするんだろう。
あたしは緑の中を駆け抜けて、冬の枯れ葉でさくさく遊び、みんなとはぐれてしまった。そうして、なんかのどが渇いちゃったので、また命の水をもらおうと、ウッドデッキにやって来た。
「あ、みけ、また来たの?」
ニンゲンが嬉しそうに言う。最初はニンゲンが怖くて、あたしはなかなか近くまで来られなかった。少し離れたブロック塀で、ニンゲンがいなくなるのを待ってから食べていた。でも、最近は怖くなくなったから、ひとりでも近くまで行けるようになったんだよ。
命の水をごくごく飲む。
こくいち、どこ行ったのかなあ。今ならひとり占め出来るよ。
あたしはあたりを見回して、にゃーんとこくいちを呼んだ。
「ねこねこ日記(3)【みけ①】」 了
*ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。
1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。
毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます