第18話 本人確認

「本人確認書類をお願いいたします」

「免許証でいいですか?」

「いいですよ」

 わたしは免許証を出した。

「番号を控えさせてくださいね」

「どうぞ」

「生年月日を教えてください」

「一九四五年十二月三日です」

「ありがとうございます。……失礼ですがこちらの書類では昭和二十四年となっておりますが。一九四五年は……」

「一九四九年ですよ」

「あ、すみません、聞き違いですね。失礼いたしました。一九四九年、昭和二十四年十二月三日ですね」

「はい」

 危ない危ない。うっかり本当の年を言ってしまった。


「……ご住所ですが、現住所とは異なるようですが」

「住民票を異動させていないんです」

「かしこまりました。恐れ入りますが、お写真とお顔の方、見比べさせていただいてよろしいでしょうか」

「はい、どうぞ」

 若干緊張しながら、マスクを下にずらす。大丈夫。この男とわたしはよく似ている。

「ありがとうございました、津村様。それでは、契約内容についてお話させていただきますね」

「はい、よろしくお願いします」

 ちょろいもんだ。免許書の本人確認と言っても、本当に大したことがない。


 わたしは数年前から「津村」だ。津村はわたしによく似ていた。出会いは偶然だった。趣味のツーリングで知り合ったのた。わたしも津村も一人でツーリングに行くのが好きだった。若いころからの趣味だが、歳をとっても変わらず好きで、時間を見つけてはバイクに乗っていた。そんなところも気が合って、住んでいたところが近いのもあり、わたしたちはバイクを降りても飲みに行ったりするようになった。そうして、津村は一緒に行ったツーリングで事故で死んでしまった。事故は多重事故で、わたしも巻き込まれた。そして目覚めたとき「津村」になっていた。取り違えられたのだ。わたしは否定しなかった。それだけ。以来、わたしは「津村」だ。


「津村様、お仕事はされていますか?」

「もう年金生活ですよ。頼まれたときだけ働いていますが」

「そうなんですね」

 お金はたっぷりある。貯金も年金もたっぷりある。なんていい老後なんだろう。

 死んでしまった自分を思いながら、わたしはゆったりと帰り支度をした。





  「本人確認」 了


  *ショートショートの連作で、10万字超の長編にいたします。

   1話ごとに読み切りの形式で、次話に続きます。

   毎日2回(7時、18時)更新。よろしくお願いいたします!

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