ファウストならぬ、カウスト

吉﨑佳央

第1話 英雄たちの始め



ゼラハの奏でる賛美歌。


王国に幸福舞い込めんよう、星々を仰ぐ。

星屑の間に宿る、宇宙の摂理。

星座の軌跡に、人の知慧深めん。

我が星は渺小、宇宙の広がりに比肩すらせぬ。

かくして心に束の間の痛み、流れこむ。


果たして苦悶とはこうも深刻なのか。

身を捧げん、王国のために。


新たな日差しのように、早くも過ぎ去りし時間はその再来を見せん。

善意は常に在ることを。陽光のあたかみは、私たちを包み込み、新たな学びをもたらしてくれた。

この輝きが永久に続くように。夜の闇が忍び寄る時も、貴方の掟を心に刻む。


どんな雨の日でも、胸には苦しみが宿ることなく輝く眼差しのような大地のめぐみであることを願う。

この旅が果てしなく続くように、光り輝く兆しに囲まれんように。

繁栄と祝福を願おう。


邪悪な心に光が差し込み、心のまに行動することのないように。

突如として訪れる嵐や病、そして死のように、去ってなくなることのないように。

我らの未来には栄光があるように。


時を超えて続く大海よ、波逆巻く海のときのように、それはまさに吹き上がる業火のように、その定めと海の誇りを我らに示しておくれ。

大空よ、光輝き、不変の日々を紡ぎ続けんように。





歌の音は絶え、演奏の幕は閉じられん時、宮廷の臣より言葉を頂戴せしめた。


光降り注ぐ昼のとき、我が帝国を脅かさんラディン国に対し、戦の準備を整えますよう。


心の底から祈り求めん、我が主の下において、勇士たちの戦いは栄光に繋がり、我が帝国に称賛が満ちることを。


謙虚に感謝を申し上げ、皆の奮励と励ましを願います。

兵長代理、将軍として名高きバドゥスより。


よし、マドゥクス執事、ではこれにて。


ご足労様です。


夕日がゆっくりと消え去りつあり、我が面々の勤めを果たす時がやってきた。


御者を頼み、お城を後にする。凛とした空気が心を包み込み、十分な思慮を重ねながら、彼女に会いに向かう。


レディナ、君に逢いたい。未来のことを考えたいのだ。

いつも戦地へ旅立つ前には、彼女の元へと向かうのだ。

レディナは私が宮殿の扉を叩く度、喜びを湛え、疲れをいやし、同情を示してくれる。

まさに幸福な時が過ぎる。


あ、レディナよ!こにいたのか。

タディス様、お越しいただき、感謝申し上げます。

ご質問を承りました。

戦の舞台へ向かわれるのですか?

そうだ、確かに。


献身を込めて思い悩みました。

お気を付けください。

危険な行いを慎むべきであると

どうかお願いしたく存じます。


理解した。

レディナよ、価値ある存在。

我が胸に頼りなる存在でありゆえ、今日も君に会いに来た。

共にいるだけで心は幸福に踊る。

この日、君に安らぎと豪華をもたらす。

君の愛する装飾品やドレス、そして団欒のひと時に、華やかな食事も用意した。


食べ、飲み、私と共に舞おう。過去の苦悩もそうだが、未来に挑む多くの課題もある。

だからこそ、この瞬間を私は欲している。

そう感じている。


ありがたきお言葉。

どうかこれからも共に過ごせますように。


喜びを胸に秘め、彼女はその場を離れた。


随かれ、その時、別国の勇者ありき。

劣勢たゆむる戦地に立ち、勝利の多くを手中にせんずる者なり。

諸国の擁護者たちも増し、名声渇望しゆかばなり。

名を為し、号はレヴォーグと申す。


勇猛なる戦士の名を冠し、美貌の貴公子と称されし彼。

敵国の冷酷を知らん国王パドラムに立ち向かうときのことなり。

「お前はまだ万の兵を手にせずとも、戦略をもちうると申し召すのだな。」と問う。

お主の策略と儀とはいかほどぞ?」


それは、今ここに起きている出来事に他ならず。」彼は答えん。

お主が余裕をたえし姿からして、私と戦うことを畏れぬように見えられむ。

然しながら、お主のような者に戦の知恵を授けん意図はない。」


「承知したまえ。それならば、こうなれ。」彼は告げん。

ここに対峙せんとする私が、お主に勝利を収めば、我が武力と知恵の高みをお主に知らしめよう。

未だお主には周知外なるが、私はお主に数百倍も勝りたり。


我が前に立ちぬる者よ、幾度となく交えりても勝利は手にすること得ず。

我が闘いの知恵をお前に証明し示さん。

最初にお前が我が部下たるヤーコンとギデムを倒せるならば、お前に退くことを許し、この戦いは不戦敗とならん。

そうでなければ、我がはお前を滅ぼし、お前の小さな生きた伝説もこで終わらせてしまおう。いかがだろう?


良し、それに承諾を得たり。

然しかれども、その条件はあまりにも無謀かと言わねばなるまいか。

聴け、我が言葉はこに限るぞ。

我が彼らが素直に応えんことをよく理解しておるつもりだ。

然しながら、我が一人でこの恐るべき敵二人を打ち破れば、こちらへと戦力が傾くはずだ。

それに、この二人が敗れば指揮を執ることも容易ではあらん。


我がは己の武力を絶対たらしめん。

未だかつて我がは敗北を知らず。


お、これはいかにも恐るべき戦術であらん。

しかれども、これを理解し得る人間はお前以外存するまい。

その命の希少さを深く肝に銘じておけ。


良かろう、では。


彼は剣を抜き、盾を手にして歩み寄る。

真剣勝負に挑む姿に、傲岸不遜かつ勇ましい彼らの血は湧き立った。

しかし、その彼に対し呆れて言葉を発する。

何ゆえ我らと対決せんとするのか。

話は聞くが、お前は我々より強くはない。

必ず敗北を知ることだろう。

ヤーコンは足が速いと思えば怪力の兵士である。

我が身で臨もう。

しかし、私も感じる。

彼には異様な違和感が漂っている。

事実を歪めんとする不可解な現実だ。

彼は愚かで向こう見ずな態度で身を委ね、短い剣をさし出している。

彼からは愚かさと無謀な決起に火をつけられたような兵士の気配がただよっているが、どこかおかしい。


挑戦に勝算が見いだせぬならば、果たして立ち向かうだろうか。

まあそれは良しとしよう。

私のような兵士に勝つ者は少ないものだ。

選りすぐりの兵士でさえ私と匹敵するとなると、様々な策謀が巡り会うことになろう。

お互いの技に加え、さらなる理解が生まれるのだ。

そして言うと、兜を手に取り、頭にかぶった。

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ファウストならぬ、カウスト 吉﨑佳央 @paraguai69

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