文化祭前日「グスコーブドリの伝記」⑥

 夕方になって、ますます学校中の空気がお祭りムードに包まれているのが肌で感じられていた。明日のダンスの衣装を着て廊下で踊っている人たちもいる。どこの教室も装飾が施されて、普段授業を受けている学校が非日常に侵食されていくようだった。

 喧噪を抜けて、静寂の国へ。

 私は図書室にいた。

 微かな呼吸音ですら、部屋中に響き渡る気がした。

 それくらい、外の雰囲気からは離れている。

 これで三日連続で図書室に通っていることになる。

「どうしてシロがいるの?」

 図書室には私、リンゴさん、水樹君、そしてシロがいた。

「手を引くって言っていたでしょう?」

 シロは水樹君と向かい合って座っていた。リンゴさんは相変わらずカウンター越しに座っている。

「その通り、杏さんの、リンゴさんの件についてはね。今はただ会話をしていただけだよ、意味なんてない」

「そんなの嘘」

 水樹君が頭を振った。

「彼は嘘はついていない。ただの会話だ」

 私はリンゴさんに目を向ける。リンゴさんも小さく首を縦に振って同意するだけだった。

「それに、僕のあとに彼が来たわけだしね」

 言い訳のようにシロが水樹君を指さす。

 いつの間にそれほど打ち解けたのだろう。

 いや、そうじゃない。最初から彼らは顔見知りだったのだ。

「それで、杏さんは何をしにきたの?」

「え、それは……」

 そういえば何をしに来たのだろう。

「誰かを断罪でもするつもりかな、名探偵」

 おどけた声でシロが言う。

「一ノ瀬先輩に聞いた」

 私の言葉に二人とも口を歪ませる。

「何を?」

 聞いたのはシロだ。

「手紙のことだけ、この手紙の、本物の人について」

「本物、か。それじゃあ偽物がいるわけだ」

 悲しそうに水樹君は言った。

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