文化祭前日「グスコーブドリの伝記」

文化祭前日「グスコーブドリの伝記」①

『夜だかは、どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼって行きました。もう山焼けの火はたばこの吸殻のくらいにしか見えません。よだかはのぼってのぼって行きました。

 寒さにいきはむねに白く凍りました。空気がうすくなった為に、はねをそれはそれはせわしくうごかさなければなりませんでした。

 それだのに、ほしの大きさは、さっきと少しも変りません。つくいきはふいごのようです。寒さや霜がまるで剣のようによだかを刺しました。よだかははねがすっかりしびれてしまいました。そしてなみだぐんだ目をあげてもう一ぺんそらを見ました。そうです。これがよだかの最後でした。』


文化祭前日。

 もうすっかり学校は文化祭の空気に包まれて、こぼれでた分が正門からあふれ出してきているみたいだった。普段は授業中のはずの時間でも、事実上黙認という形で生徒は学校を出入りしている。

「では、諸君、それぞれの持ち場で健闘を」

 執行部の二年である御堂先輩が宣言をする。彼は次期生徒会執行部の部長、つまりは生徒会長になることが決まっている。

 執行部の準備もほとんど終わり、あとは無事に開会式と閉会式が済めばそれでよくなっていた。

「では解散」

 私とシロは開催期間中、クラスの喫茶店を手伝いながら、二人とリンゴさんで作ったペアバッジの引換所を担当する。さすがに同じクラスの二人では手が足りないので御堂先輩にお願いして数名の文化祭実行委員の手を借りることになっている。柏木さんは放送設備のセッティングなど裏方を担当している。

「それじゃ、僕らも教室へ戻ろうか」

 部員が三々五々に散っていったあと、シロが私に声をかけた。

「うん。あの空気が多少良くなっているといいんだけど」

「そうだね。まあ大丈夫じゃないかな。優先すべきは明日からの文化祭だってことはみんなわかっているだろうし」

 朝の出席を取る段階では、まだクラスの男女間に昨日の曇った雰囲気が残っているように見えた。完全な対立は免れたものの、冷戦状態に近いのではないか、とすら思った。その空気が少しでも治まってくれていれば、と願った。

「まあ、願う分にはタダだし、きっと大丈夫」

 シロが安穏とした表情で言った。

「あ、藤元さん! 少しお時間ありますか?」

 二人で部室を出ようとしたところで、私は柏木さんに呼び止められる。

 シロは私と柏木さんの顔を交互に見て、

「先に戻っているよ」

 と言って手を振って去っていった。

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