文化祭二日前「双子の星」⑤
作業の続きをするために教室に戻った。シロは他の男子とともに別作業のため教室から出て行った。ダンスに使う山車の組み立てでもするのだろう。
「あ、いたいた藤元さん」
「え?」
適当な作業をしようとしていたところを呼び止められる。そこには腕を組んでクラスメイトの横山さんが立っていた。その横には数人女子のクラスメイトがいた。彼女たちはいつも連れ立って行動をしているので、何だか少し苦手だった。
「この間頼んでいたの、もう出来ているよね?」
「……この間?」
「ああ、やっぱり」
横山さんが苛立った様子で組んだ腕のまま、右手の指先をとんとんと動かしている。
「執行部が忙しいのはわかるけど、クラスのことも忘れないでよね」
「あ」
「思い出したみたいね」
嫌味っぽく、事実嫌味として言われて思い出した。分担されたダンスの衣装の小道具を家で作って持ってこなければいけなかったのだ。
「どうするの? 本番は明後日なんだよ!」
「あ、えっと」
まごつく私に彼女の横にいたクラスメイトが問い詰める。
「まさか何にも手をつけていないわけじゃないよね?」
「あれだけ負担減らしたのに」
強い語調で周りから責められる。
「あ、あ……」
なんだっけ。
言葉が、
でなくて、
頭がぐるぐるする。
「ちょっと」
声が詰まって、息が出ない。
「おい、大丈夫かよ」
近くにいた男子が声をかけてくれる。
だい、じょうぶ。
「何言ったんだ横山」
「別にそこまで……」
そうだ、横山さんも、周りの人も酷いことなんて言っていないし、私は何もされていない。ミスをした私が悪いのだ。
ごめんなさい、ごめんなさい。
だいじょうぶ、だいじょうぶなんだ。
伝えたいのに、声にならない。
思い込め。
だいじょうぶだと。
こわくないと。
思い出すな。
何もなかったんだ。
心配なんてしなくていい。
カタカタと体が震える。
そうだ、薬を。
ダメだ、薬は鞄の中だ。
考えるな。
考えろ。
漏れ出る吐息で、言葉を練る。
「ご、ごめ……」
「ちょっと行くわよ」
聞き覚えのある声にぐいっと腕を掴まれる。
「連れていくけど、いいわよね?」
「あ、うん、いいけど」
横山さんがうなずく。
「藤元さんの分は、そうね、田中さん、お願いできる?」
「え、でも……」
「お願い、貴女ならできるはずだから」
突然呼ばれたクラスメイトが逡巡している間にたたみかける。
「わかったけど……」
田中さんが横山さんに目をやる。
「それで良いわよね、横山さん」
今度は横山さんに確認を取る。
有無を言わせない気迫があった。
「うん」
「じゃあ、私は彼女を連れていくから。ほら、みんな作業に戻って」
そして私は彼女の手に引かれ、教室を後にした。
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