第三話 普遍的日常


喫茶店【ハルバラ】


昔ながらの喫茶店という感じのお店。この村に個人の喫茶店はここしかなく、商店街から少し離れた場所にひっそりと佇んでいる。平日はお年寄りの集会場となっており、放課後になると学生が時間を潰すために立ち寄る。


マスターは男が一人でやっている。名前は春原すのはら。多分店名は自分の名前から取っているのだろう。年齢が全くわからない人で、おじいさんというほどではなく、おじさんなのだが、40代と言われても納得するし、20後半と言われてても違和感が全くない。本人曰く年齢は飾りらしく、この世界の誰も彼の年齢を知らない。


「あらぁ〜、珍しいお客さんも来るみたいねぇ。スバルちゃん久しぶりぃ。御使さん家のぼっちゃんもいらっしゃぁい」


野太いようなか細いような声で俺たちを迎える。まあ、こういうひとなのだ、特に触れることもないだろう。ちらほらと客は入っており、お年寄りが涼みに来ていた。


僕たちは窓際の四人用のテーブルに座ることにした。午後の強い日差しを防ごうとカーテンの紐を引っ張る。電気代の節約なのか、静かな冷房と対照的に目まぐるしく回る扇風機の音が店になっている。


残念ながら窓際の席は扇風機の風がなかなかこないため、仕方なく、少し窓を開ける。気持ち涼しい風が流れている。


「あらぁ、ここら辺じゃ見かけないお嬢ちゃんねぇ〜。もしかしてスバルくんのかの....」


「違います」


「じゃあ、ユウマくんの!」


「違います。アイスコーヒーガムシロ2つ」


冷静に対処するハルカをよそ目に、怯えてスバルの後ろで涙目のマスター。苦笑いを浮かべながら、よく考えたら僕たちも彼女のことは全く知らないので、フォローもできずに注文だけした。


この店のおすすめは、しくもハルカの頼んだアイスコーヒーである。ここのアイスコーヒーはマスター自らドリップしており、豆はもちろん、時間や水、氷の温度にまでこだわられている。(その代わり一杯500円と学生の財布にはちょっと苦い)

そしてこれもたまたまなのだが、ミルクなし、ガムシロップ2が僕の基本である。

まあ、真似されたとか思われたくないので、ブラックにした。スバルはメロンソーダを注文。さっきアイス食ってたのに、子供のチョイスだな。


来た飲み物を軽く飲みながら、話を進めることにした。


まずは、未来から来たということだ。もうとう信じてはいないが、聞かなきゃ行けなさそうなので、仕方なく聞くことにする。


アイスコーヒーをかき混ぜながら、ハルカは僕たちの顔を見ながら話し始めた。


どうやら記憶がないのは本当らしく、覚えているのは名前と、未来から来たということ、そしてこの世界が崩壊するということだけらしい。




あまりにもファンタジーだ、現実味もなければ、証拠も根拠も何もない。



でも、なぜか、嘘だと、笑うことができない。



自分が少し望んでいたのだろうか、面白い夏休みを。普通とかけ離れた夏休みを。普遍的な日常を手放すことを。


でも、世界が崩壊するというのはいくらなんでも、NGだ。


「結局よー、誰に言われたんだよ、その世界が崩壊するっていうのは。一週間っていうそこだけはやけにリアルだしよう」


スバルはチェリーのたねを口の中に転がしながら聞いた。確かに、会った時、一週間という数字を話していた。夢だったとかそういうオチだとしても、期間を指定しているのは少し引っかかる。


「神様よ。神様にそう言われたの。自称神様とかじゃなくて、それを見た時、私が神様だと思った。いや誰が見ても神様だと思う」


ハルカはまっすぐな目で僕たちをみる。


さっき見せた真剣な顔。美しい顔。この一週間を戦うためだけに来たような。


「神様を探したいんだよね。わかった協力するよ。どうせ暇だから、あと世界が崩壊するっていうのも嫌だからね」


「はーあ。ユウマは優しすぎんだよ。俺は協力するが、お前のためじゃねえよ。お前の妄想だということを証明するために全力で手伝ってやんよ」



ハルカは、泣いていた。


なぜ泣いているのか自分ではわからないように。いや、もはや泣いているというのが自分では気づいていないかのように、ただただ水滴がテーブルに落ちている。


僕は何も言わず、残ったコーヒーを一気に飲んだ。一体彼女は何者なのか、疑問は山ほどあるが、本当に未来から来たのではないかという気持ちが僕を襲う。




もし未来から来たことが本当なら。



タイムリミットは残り六日ということになる。





「神様ねぇ.....」

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君が世界のバグ 神奈月 @kakuuuuuuuu

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