12-3「ハリボテの傀儡(うつわ)」(5P)




 そこに広がるのは、静かな静寂。

 夜のしじまに煌々と降り注ぐ、白銀しろがねの光。

 庭池の水面に反射しゆらゆらとたゆたうさまは、人の心を惹きつけ、安寧へと誘う──のだが





 彼の心は収まらなかった。







「──────……」

 




 そっと、窓ガラスに手を触れる。

 固くひんやりとしたソレに、体温ねつを失いゆく人の様子が重なって





「…………っ!」



 再び、口を固く閉ざした。




 ループだ。





 ──アレ・・


 ただの幻であろうが


 夢の一面であろうが



 見たくなかった。

 目にしたいものでは無かった。

  


 悪い冗談とも言えない。

 最悪な幻だ。




(────……皮肉だろうか。それとも、懺悔の催促だろうか)





 ソレが出てきた理由を探し、

 トン、と窓ガラスに背を預け、足元を見つめ呟く。



 見下ろす先は、自らの脚すらはっきりとは見えない闇が広がり────







 重なる。

 重なる。


 闇が『夢』と重なる。




 貴族という名の化物が這い出る闇と重なって


 再び恐怖が渦を巻く。




 しかし、それを瞬時に呑みこむ様に

 勢いよく噴出し、彼の心にまん延したのは、滑稽と嫌悪を凝縮したような感情だった。




 ────ハ! ハハハハハハ……っ!




 ああ、可笑しい。

 滑稽だ。

 滑稽で仕方ない。

 


 笑いも乾く。

 ちゃんちゃらおかしかった。






(────愚かだ。滑稽だ。笑い種もいいところだ)




 夢だとわかっているのに恐怖を覚える自分も

 足を掴み袖をつかみ、べたべたと纏わりついてくる貴族の手バケモノも。

 


 何もかもが可笑しい。

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