12-3「ハリボテの傀儡(うつわ)」(1P)




「────っ!」


 取り戻すように息を吸った。



 どろりと開けた瞼の向こう側、飛び込んでくるのは夜の闇と、仄暗い天井だ。背中に突き上げるような衝撃を受けた気もしたが、エルヴィスは今それどころではなかった。





 ──どっ、どっ、どっ、どっ、どっ、どっ、どっ、どっ、




 鼓動が煩い。

 猛烈に感じ始める背中の熱。

 呼吸も浅い。苦しい。

 


 自身を取り戻すように激しく流れる『感覚』が、どろりと重く鈍い瞳と脳みそに追いつかず、ただ、数秒。



 呼吸だけを耳に、動けなかった。




「…………────……」



 愕然と闇を見つめて、ひとり。

 背中で鼓動を感じながら、ひとり。




 夢か。

 現実か。



 判断のつかぬまま、瞳をぐるり。




 闇の向こうに広がる自室の天井を見る。

 ブランケットを握りしめていた指を握りしめる。



 熱く汗が噴き出す背中

 未だ止めている息。


 ひとつ、ひとつ、状況を確認し

  ────すっ。




 はっ、


 はっ、


 はっ、

 ハッ、


 ────は────っ…………



 

 ゆっくり。

 ゆっくりと息を吐き出し、身を、起こした。






 ああ、背中が熱い

 心臓が五月蠅い

 額に、うなじに、じっとりとした嫌な汗

 前髪が湿っている

 触らなくてもわかった

  




(────久し……、ぶりだ……)

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