12-2「うるさいうるさい煩い五月蠅い」(1P)






 それは、遠い昔の記憶。

 突きつけられた惨状。

 目の当たりにした時の衝撃を 彼はまだ覚えている。





 取り返しのつかない罪を まだ、覚えている。












(────なんで?)

 頭の中に響くのは、まだ高く幼い『自分の声』。

 



 純粋な光を宿していたその瞳が捕らえたのは 焦げつき、崩れた壁。

 焼け落ちたであろう屋根のはり





 少し前まで

 彼が過ごし、暮らしていた小さな家は今




 見るも無残な痕跡を残し、そこで惨状を物語っていた。






(……シェリル……は?

 マイクは? ヘレンは?)





 変わり果てた家を前に頭の中に過るのは『ここで暮らした彼ら』たち。


 寝食を共にし、毎日顔を合わせ笑い合っていた、『家族』。



 そんな彼らを瓦礫の向こうに透かし見る少年の頭を

 ぽつん、ぽつんと雨が打つ。




 見通しの良くなり過ぎた家の中、見覚えのあるリビングの暖炉を濡らす。





(──あそこで、マイクとけんかした。

 あそこで、シェリルにあまえるヘレンとマイクをみてた。

 

 ────シェリルは、ぼくに)





 断続的に思い出しながら

 呆然と ただ茫然と立ち尽くすかれに、村人は言った。





『おい坊主、ココに近くづくんじゃねえ。おめえも焼かれちまうぞ』

『可哀そうにねえ、あんな子預かるから』





 嫌悪をにじませた声と、愉快だと言わんばかりの声。

 ひそひそとした声。

 




 『ひそひそくすくす、あーあぁ、やれやれ、ほらほら、ひそひそ、ふふふふふふ、こわいこわい』





 瓦礫の前で 声がおどる。




 『悪魔の末裔にかかわるから』

 『ほぅら、言わんこっちゃない』

 『ボク、そこにいちゃダメ、早くどこかに行きなさい』

 『ここにいたら悪気あっきを吸ってしまうよ』




 ひそひそ、ひそひそ

 


 まるで 見てきたように

 全てを知っているかのように


 オトナが ウルサイ。






 かれは問いかける。

「どうして、こうなったの?」




 ポツリと呟き振り向けば、そこに広がるのはオリオンの屋敷だ。

 高い高い天井を背に、高い高い所から、大人たちは口々に言う。



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