12-2「うるさいうるさい煩い五月蠅い」(1P)
それは、遠い昔の記憶。
突きつけられた惨状。
目の当たりにした時の衝撃を 彼はまだ覚えている。
取り返しのつかない罪を まだ、覚えている。
※
(────なんで?)
頭の中に響くのは、まだ高く幼い『自分の声』。
純粋な光を宿していたその瞳が捕らえたのは 焦げつき、崩れた壁。
焼け落ちたであろう屋根の
少し前まで
彼が過ごし、暮らしていた小さな家は今
見るも無残な痕跡を残し、そこで惨状を物語っていた。
(……シェリル……は?
マイクは? ヘレンは?)
変わり果てた家を前に頭の中に過るのは『ここで暮らした彼ら』たち。
寝食を共にし、毎日顔を合わせ笑い合っていた、『家族』。
そんな彼らを瓦礫の向こうに透かし見る少年の頭を
ぽつん、ぽつんと雨が打つ。
見通しの良くなり過ぎた家の中、見覚えのあるリビングの暖炉を濡らす。
(──あそこで、マイクとけんかした。
あそこで、シェリルにあまえるヘレンとマイクをみてた。
────シェリルは、ぼくに)
断続的に思い出しながら
呆然と ただ茫然と立ち尽くすかれに、村人は言った。
『おい坊主、ココに近くづくんじゃねえ。おめえも焼かれちまうぞ』
『可哀そうにねえ、あんな子預かるから』
嫌悪をにじませた声と、愉快だと言わんばかりの声。
ひそひそとした声。
『ひそひそくすくす、あーあぁ、やれやれ、ほらほら、ひそひそ、ふふふふふふ、こわいこわい』
瓦礫の前で 声がおどる。
『悪魔の末裔にかかわるから』
『ほぅら、言わんこっちゃない』
『ボク、そこにいちゃダメ、早くどこかに行きなさい』
『ここにいたら
ひそひそ、ひそひそ
まるで 見てきたように
全てを知っているかのように
オトナが ウルサイ。
かれは問いかける。
「どうして、こうなったの?」
ポツリと呟き振り向けば、そこに広がるのはオリオンの屋敷だ。
高い高い天井を背に、高い高い所から、大人たちは口々に言う。
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