12-1「皮肉」(7P)


 


 小さなものが落ちる・音を出す。

 誰もいないところから気配がする。

 足元を何かが通り抜けていくような感覚。


 妙な視線。

 


 それを感じているのはエルヴィスだけらしいが、小さな異変は日に日に増えているように感じる。

 



 その原因はわからないが、もし

 大勢の客を招いた時に、大掛かりな怪奇現象でも起こされたらどうだろうか?


 異常現象で、客に怪我をさせるようなことがあったらどうなるだろうか?





 それが無くとも、『オリオン』は


 『命を奪った武器商人』

 『命の上に築いた富』

 『金の亡者』

 『悪魔の末裔』などと、言われているのに。


 

 『呪われし一族』に箔をつけて、どうするというのだろうか。

 



(…………『怪奇現象』なんて、腐った貴族ノブレス・マラードどもに餌を与えるようなものだろう)



 それを知ったや否や、デーモンの首でも取ってきたかのように嬉々として語る貴族連中を想像し、肚の内で嫌悪を研いだ。想像しただけでもうんざりと、腹立たしい。




 屋敷に住まう使用人たちのこともあるのだ。

 原因がわかるまで、安易に人を招き入れたくは無かった。




 頭の中。

 『祈祷師か除霊師を呼ぶべきか』と考えがよぎる中────



 

「────…………」


 見据える先は『先ほど音がした場所』。

 机の奥、物の影。


 目をやり剣幕を研ぎ、気迫を滲み出しつつ────問いかける。





「────誰か いるのか」




 ────しかし。

 その問いかけに、答えはなく────


 エルヴィスの声は、静かに溶け、消えたのであった。












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