12-1「皮肉」(6P)




(…………きっと、綺麗だと思うんだけど)

 これは、口には出さずに胸の内。




 頭の中で鮮やかに咲くミリアのドレス姿に

 愁いと・ささやかな華やかを混ぜながら、ふんわりとした気持ちが舞い上がり────






 ────コッ……

「────!」

 突如響いた小さな音に目を見開く。



 舞い上がっていた気持ちはどこかへ消え失せ、瞬時に張り詰めるは緊張の糸。

 眉をひそめ、音のした方を注視した。

 『糸くず一本たりとも見落とさない』と言わんばかりに意識を注ぐ。




(────なんだ・・・……!)



 纏う色を完全に切り替えて

 エルヴィスは見据えるのは、部屋の隅。



 机の影。わずかな闇。

 遠慮のない殺気と警戒を叩き込みながら、更に神経を尖らせる。




 通常ならば、気にも留めないほどの小さな音だ。

 ────しかし。



「………………」 

(────いい加減にしろ……!)

 


 

 と殺気を注ぐが──、


 そこから誰か現れることは無く、ただ、見慣れた机と壁が静かに有るのみ。




 変わらぬ景色。動かぬ家具。

「────…………っ……!」

 『苛立つほどに変わらぬそれ』に、エルヴィスは怪訝のまま息を吐き出した。



 


 自棄やけくそ気味に瞳を投げながら、思い返すのはヘンリーの言葉だ。





 『よくネミリア大聖堂 こ こ を借りましたね?』





 問われ、彼は『人が入り切らない』と答えたが────



(────まさか『屋敷で怪奇現象が起きている』なんて

 言えるわけがない……!)





 ────そう。

 ここ最近、オリオンの屋敷では、些細な違和感を覚えたり、誰もいない場所から異音がするなどという現象が増えたのである。



 

 『その現象がいつからなのか』、エルヴィスも明確にはわからないのだが


 


 『確かな違和感』は、『あの日』。

 『抜ける感覚に襲われた日』から。


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