12-1「皮肉」(5P)



 

(…………皮肉なものだ。

 ドレスに限ったことではないが、それに心血を注いでいる人間が──もっとも遠いところをにいるなんて)




 広い自室のソファーの上。

 足を組み、頬杖を突き、溢すのは憂いを帯びたため息だ。

 

 



 舞踏会に集った『色鮮やかなドレスに身を包み微笑む令嬢たち』と入れ替わるように




 思い浮かぶのは、着付け師のミリアの顔と声。





 ──『いくらすると思ってるの?』

 ──『着れるわけないじゃん』


(…………確かに、そうだろうけど)


 


 ──『でも、良いの。ローブより全然まし!』


(…………いいのか? 本当に?)





 頭の中の──

 あっけらかんとした、『これ以上望まない』と言わんばかりの顔に、視線を落としていた。




 

 鮮やかな衣装に憧れ

 遠路はるばる国を超えて

 服飾関係の職に就き、毎日それらに向かい合っているというのに



 誰よりも、好きなはずなのに




(……それでいいのか?)


 


「…………似合うはずだ」

 独り。

 誰にともなく呟く。






 彼女の体系は平均的。

 トルソーと同じだというのだから、ドレス衣装は間違いなく映えるだろう。

 



 どんな色が似あうだろうか。

 どんな形が好みだろうか。


 

 艶のある深い茶色の髪も

 透き通ったはちみつ色の瞳も


 『ドレス』という衣装の前に、引けを取らないだろうに。

 

 

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