12-1「皮肉」(3P)


 懸念と共に沸き上がる楽しい気持ちとは逆に、がくんと項垂うなだれた拍子。

 首に突っ張るような痛みを感じて、根元に親指の付け根を押しこむ彼。






(────首が……! 肩が、固まって仕方ないな……!)


「──んっ、……これは……! ツライな……!」



 思わず呟く彼。


 ここ数日、縫物で酷使した首の根本は前より強めに、彼の指を押し返し──

 気持ちのいい痛みを感じながら、また、眉をくねらせ息をついた。





 彼は、日ごろ体を動かすほうである。

 モデルや盟主として立ち振る舞う際に、背や腹に力をこめ、姿勢を保たねばならないからだ。



 どちらかと言えば『身体を開く動き』には慣れていた。

 しかし、縫製工房で取り続けていた姿勢は『その反対』。

 常に背中を丸め、手元を見ながらひたすらに指を動かす、『閉じる姿勢』。




 

 木製の皿の上

 転がる無数のビーズをひとつひとつ拾い上げ

 破けるのではないかと厚みの薄いレースを縫い付ける

 キメの細かい絹に針を通し、整える。



 そのかん、関節はあまり大きく動かない。

 当然、あっという間に凝り固まった。




 肩に押し込む彼の指の先、ごりっと音を立て


 沈み込んだ筋肉の先で広がる『心地いい指圧感』。



 

 ………………はぁー………………


 気持ち良さと共に、脳に蘇るのは、修羅場中のミリアである。




 『肩が……! 腰、腰〜〜……!! んーっ……!』

 『背中、バキバキ。おばあちゃんになりそう』




 と、ツラそうに肩を回していた。

 そんな彼女に眉を下げるエリックに、ミリアは言うのだ。


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