11-15「襤褸布の坩堝」



「──So ini what saya hav keyt?. Dom lasol hant siy glay dukn? ah ini Altvinga è hunikiga Cawaatppy.

《ボクも聞いた話なんですけどね? どーもここ半年ぐらいですかね? 町の雰囲気が変わったらしいんですよ》」


「......hunikyg Cawaatppy?《雰囲気が変わった?》」

 


「So,《ええ》。

 Ah.... "rather creepy"? Non, saya tak know non gointo te Machi in.《なんていうか小気味悪い? ボクも中まで入ってないですけど》」



 聞かれたことに、澄まして答えるヘンリー。

 彼らが、いや、エルヴィスが『古語』を指示したのには理由わけがある。

 スラム街の話など、貴族は人一倍嫌うからだ。

 

 『口にするのも汚らわしい』

 『近づくなんてもってのほか』

 『ああ、おぞましい』

 

 と囁かれている場所の話を、こんな場所でするわけにはいかないのだが──

 ヘンリーもエルヴィスも、それなりに多忙な身。情報を交換するなら早いほうが良かった。


 古語は、教育を受けている貴族でも、扱えるものは特に少ない。暗号として使うのにはもってこいだ。


  

 ダンスホールの端の方。

 令嬢二人がにこやかに『素晴らしいわ』『光栄よね』『天にも昇る気分』と呟きながら通り過ぎていくのを横目に、彼らはすまし顔を崩さない。


 ヘンリーは、エルヴィスだけに聞こえる程度のボリュームで言葉を続けた。

 

 

「.......En information broker. Niylt motkar,the spooky townjust mot mot creepier lasy.

 《情報屋の話によると。もともと気味が悪い街により一層気持ち悪さが増したんだとか 》」

「…………"So Creepy”…………《……気持ち悪さ……》」


「……Also, more and more apostatize.

 《それと、棄教するものも増えたと》」

「"Ne MIria"?《ネミリア教を?》」

「Ya.《ええ》」



 頷くヘンリーに、エルヴィスは眉をひそめた。瞼の内側を舐めるように視線を這わせ、口元を覆いながら考えを述べる。



「……Enis religion te most likely cause of chang tht can thincof?《考えられる原因といえば、新たな宗教か?》

 Wlewle believin an teach te goddess 'Nem MIria',bunot forcibly.《国として『ネム・ミリア』を信仰しているが、強制ではないしな》

 ah ma tak The ”Altvinga area” has notak shortage f stinking religion.《本当に、昔からアルトヴィンガ地域は、胡散臭い邪教が後を絶たない》」


「ahhhh,《まあ〜〜》

 Ien has been e before, hasn't t....《今までもありましたからね〜》 waken waccranay an myona kencow tok

《わけのわからない邪教とか、妙な健康法とか》」



「ああいった類の詐欺は、いくら潰しても出てくるよな……」

「もともと、あのあたり一帯はアルダーの土地もんでしたからね。妄想が得意な血ってやつは、受け継がれていくものなんじゃないですか? 思想っていうんですか?」



 と、小さく息をつきながら、ヘンリーは『アルダー族』を思い浮かべ宙を仰いだ。


 アルダー族とは、アルトヴィンガ周辺に住んでいる小民族だ。オリオン領東・ランベルト領の西を中心に、ロフマン領・ジュネダール領と広く散らばっている。


 特定の神をあがめるのではなく、なんでも『神』として仕立て祀るのが得意な民族で、鍋の底に残ったスープにでさえ『神は居る』というのだから驚きである。


 昔こそ宗教争いがあったようだが、今は、とても大人しい。

 

 ある種『特異』な彼らを思い出すヘンリーの隣、エルヴィスも、静かに口を開いた。


 

「……まあ。『あがめる神を次々にでっちあげる』ということだけで、気質は大人しいから放っておいているが……あまりにも詐欺まがいのことをし、被害が増えるのならば、今後、粛清の対象にもなり得る……だろうな」

「いや~……それは避けたいですね~……何のための『不戦の契り・平和への宣誓』なのかと」


「…………あれは。『リクリシア・アルツェンビルド・ノースブルクの三国』が『ナガルガルドとジュドラムを相手に打って出た警告』のようなものだ。外の抑制にはなっても、内部には意味をなさない」

 

「いやいやいや、勘弁して下さいよ!? 粛清なんてしませんよね!?」

「────しない。彼らもノースブルクの民だ。守るべきものであり、殺すべき相手ではない」

「…………!」


 

 はっきりきっぱり、整然と。

 忌憚ない言葉に圧され、ヘンリーは小さく息をのんだ。


 ────彼の胸に灯るのは、ぐっとした熱い思いだ。


 守るべきものを、護るものとして。

 確固たる誇りを持ち、矢面に立つエルヴィスの姿勢は、彼の下に就く貴族として、とても誇らしかった。


 ヘンリーが黙って目を向ける最中さなか、若き盟主はその限りなく黒に近い青い瞳に、力を宿して言葉を発す。



「宗教や信仰の違いは、常にいさかいを生んできたが……彼らは別に、宗教的侵略を企てているわけでもないんだ。父・祖父の時代から、それはずっと変わらない。あがめる神が違うというだけで、粛清の対象にはならない」

「……はい!」


「────『領民に危害を加えれば』、その限りではない……がな」

「…………」



 静かな口調の中に、やや、影を落として述べるボスだが、ヘンリーの熱い気持ちは変わらなかった。


 薄紫の瞳に輝きを宿し『この人が盟主でよかった』・『主君としていただく相手でよかった』と強く思う。


 ボス・エルヴィスは、権力を振りかざさない。


 旧時代──

 貴族の誇り・権力ちからを重んじ・振りかざし『逆らうものには粛清を』『忠誠には信頼を』を貫いてきたオリバーとは正反対で、『何事にも理由があるはずだ』と時間を割き、理解を示そうとする。



 それは、先代を支持してきた諸侯からは『腑抜け』『甘っちょろいお坊ちゃん』などと陰でわらわれているのだが、エルヴィスはそれらを歯牙にもかけなかった。


 戦争も、粛清も、彼らが生まれる前の話。

 

 『平和な世を作るため』

 『民の安寧を作るため』


 理想を掲げ、政策を敷いて8年。

 ノースブルク諸侯同盟国内は、随分と暮らしやすくなった。


 ────その、一方で。


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