11-8「着付師ミリアは闇に呑む」
「……責任感、あるよね。」
思い出して呟く。
それは、ミリアから見えたエリックそのものへの感想だった。
むくれた頬から空気が抜ける。
いつも通りに戻ったビスティーの景色が、先ほどより柔らかく感じる。
オリオンの家の者として、手伝いを買って出た。
オリオンに仕えている者として、仕事も全うしようとしている。
彼の
────出会った時の『あいつ』とは、全然違う。
『悪かったな? 狩りの邪魔をして』
『別に、彼女を獲ろうとしているわけじゃない』
『後は好きにやってくれ』
「────なんて言ってたけど、でも」
ぽそりと呟く声に混じるのは、理解と親しみの色。
瞼の中、くるんと流れる、ハニーブラウンの瞳も優しく、動くホウキの毛先も穏やかだ。
「…………なんだかんだ、たすけてくれるひと。『最終的には助けちゃう』。そんな人だ、エリックさんって」
『命を賭ける』と言い切った。
『手伝う』と申し出た。
『力をつけないと』とも、言っていた。
その言葉から感じ取れる、彼の『きちんとした性格』に、ふふっと頬が緩む。
(──意地も悪いし、イライラを隠さないし、人を揶揄って大笑いするし、だけど、真面目で、────それで)
(…………それで)
穏やかさに、一転して広がり過るは彼の棘。
なんのことはない、コルトとの談笑のあと。
怪訝を交えて聞かれた言葉。
『なんで、皿?』
『は?』
『デリバリーサービスでも始めたのか?』
矢継ぎ早の質問に、少し驚いた。
しかし、正直そこはあまり気にしておらず────、ミリアに焼き付いていたのは『そのあと』だった。
覚えのない怒りに戸惑い、聞いた言葉に返ってきた『………………別に』。明らかな不機嫌と苛立ちを纏ったそれは、僅かな時間で
『────さ! ミリア? 片付けてしまおうか?』
まるで、一瞬にして人が変わったような笑顔に言葉を失った。
目の当たりにした
「──────〜…………」
あの時の気持ちがリフレインする。
『どうしたの?』と声をかけようか、疑惑の瞳を向けようか、──それとも、流そうか、迷った。
結局彼女は『流す』を選んだのだが、あの『無理やりな話題変更』は、ミリアの脳に色濃く、焼き付いていた。
「…………なんか…………」
じわりと中央に眉が寄る。
ぐ……っと唇に力がこもる。
そして、漏れ、こぼれる『独り言』。
「……あれって、すぐできること……? 怒った原因、わかんないけど、でも、あの
──垣間見えるソレに、考える。
怒りも喜びも、なかなか切り替えるのは難しい。高揚はしばらく自分を捕えて離さないし、怒りは何度でも蘇ってくるのが感情というものだ。特に、怒りなど、いくら気持ちを平坦にしようが、あきらめようが、胃の底に落としケリをつけるまで時間がかかるというのに。
「……我慢してる感じある……『押し込めるのに慣れてる』? っていうか…………だって、あの時………………絶対、怒ってたのに…………」
彼は、何も言わなかった。
理由があるなら言ってくれて良かった。
だから『なんで怒っているのか』と聞いたのに、逆に向けられたのは『優等生』の顔。
まるで激しく突き放すかのような・笑顔。
それを目の当たりにして、彼女が抱いたのは寂しさではなく──
「…………あんな、
「貼り付けたみたいな……」
「…………あの人…………」
し────ん……と静まりかえった店内に、ミリアの不安げな息遣いが溶け、消えて
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