9-11「俺の相棒は加減というものが欠落している」




 ──── つ っ 。 パ ァ ン っ ! ! !

 流れを読んで・・・・・・、そのまま空高く打ち上げた!



「…………弾いた!?」

「────君! 加減ってものを知らないのか!?」



 驚きくミリアに、エリックは声を張り上げた。

 なんとか盾が壊れる前に弾き飛ばせたとはいえ、下手をすれば大けがである。

 焦りを湛え問いかけるが、しかしミリアから返ってきたのは勢いの良い肯定だった。



「しっている! しってるから加減してるじゃん!」

「──どこがだ!」



 間髪入れずに抗議を入れる!

 しかし!



「これぐらいで死んだりしないからっ!ほらっ! いくよっ!」

「嘘をつけ!」


「────いけ! [ウォルタ・ボール]!」

 ──どん! ざあっ!



 こなれた手つきでエレメンツを切り替え、狙いを定めた水球が、エリックの居たあたりで弾け飛ぶ!



(────もういっかい!)

「[ウォルタ]! [シャワー]!!」

 しゅっ! ざああああああ!



 局地的に降り注ぐ水の柱をお見舞いする! が、素早く避けられ、ミリアは眉をひそめる。



(──っていうか!)

 ────どんっ! びしゃあ!



(────さっきから!)

 ────ばしゃん! ぱしゃん! ばしゃん!!



(ガンガン煽ってんのにっ!)

 ダダダダダダラララララッ!! 



(……もお~~~~……! なんで攻撃してこないわけ??)

 それに気が付いて、ミリアは思いっきり頬を膨らませた。




 そう。エリックは打ち返してきていないのだ。

 ひたすら避けつつ、避けきれなければ弾いている。


 撃ってるに撃ち返してこない。

 仕掛けてるのにやり返してこない。

 こんな展開は、つまらないことこの上なかった。



(あ〜〜〜もおお〜〜〜……!)



 せっかく打ち合いができると思ったのに。

 ずっと力を封印し続け、我慢に我慢を重ねていた『魔法ゲーム』を楽しめると思ったのに。やたらと好戦的なエリックの事だから、ガンガン反撃してくると思ったのに。

 

 ふたを開けてみれば、彼は『守る・避ける・弾く』しかしてこない。

 『彼の好戦的な性格』や『威嚇する様』を見込んで、『加減しつつ遊べる程度に煽っている』のに、これでは一方的なリンチだ。


 

 まあ、『大丈夫、当てないから。ちゃんと寸前で散らすから、遠慮しないでね』を言い忘れた上、『フィルラップしてね』も忘れたミリアが悪いのだが、彼女がそんなことに気が付くわけもない。


 待望の『ガンガン撃ち合い魔法の応酬タイム♡』が訪れないこの状況に、ミリアは、”む!”っと頬を膨らませ、揃えた指先に『チカラ』を呼んで────



「────遠慮は要らないっていったでしょっ!」

 イラついた声を張り、同時に、仕掛けた!



「エレメンツ[ウィンド]! ターイプ……!」

「────っ!」



 彼女の指の先、淡い緑の光が集まりゆくのを目の当たりにして、エリックが全身で身構えた時!



「[ロープ!] アクト! [足払いフット スウィープ!」

「────!!?」



 ────かくんっ!

 瞬間!

 重い風が足元を吹き抜け、払われ抜ける、膝と足! 崩れたバランス! 

(────しまっ……!)

 前のめりに倒れる身体を脳が理解した、その瞬間!


 ────ぐっ! ぐるん! スタンっ!

 反射で腕が飛び出し、大地を押し返し軽やかに体勢を立て直した!



 そんなエリックに、ミリアの眉がぴくんと跳ね上がり、唇が尖る!



(運動神経いい! むぅかつく!)

 ──しゅわぁ……!


 ムカついた勢いそのまま、ミリアは手のひらに光を集め始めた。

 瞬きもできぬ速さで集めた光を飛散させ、無数の光の針を背負う。

 《────くんっ……》と見せつけるように漂わせたそれに、エリックが目を丸めた時。

 

 ミリアはそれを解き放った。

 殺傷力など皆無。

 ただビビらせるだけの『光の針』。

 ──ゅん、と空を裂きエリックに迫る!

 が、彼はそれを鼻先で躱すのだ!



「────ちょっとムカつくぅ! なにそのハイスペックっ! 運動神経!」

「”ハイスペック”? ──ハ! 精一杯なんだけど!?」

「そーは見えないんだけど!?」

「──ハハッ! なら、誉め言葉として受け取っておくよっ!」

「むぅぅぅかつくっ! そのクチっ! 封じてくれるっ!」



 

 まるっきり余裕皆無・苛立ちにも似た軽口をたたくエリックに、悪役さながらのセリフを吐くミリア。

 完全に意地である。



(顔面彫刻で? 背もあって? 勉強もできて? 運動神経もあるとか? なーーーめてんのかこのおにーさんはッ!)



 最早『怪我しない程度に実践しようね』モードは忘れ去り、ムキになっているミリアが次に捉えたのは『足元の花束』。

 それを素早く蹴り引き上げ、天高く頬り投げる!



「────ミリア!?」


「[ウィンド]! タイプ サイクロン! エアーパックで~~~~!!

 えーっとなんだっけ、[chipチップ]で[cut”カーット的な]!」

(────? なんでそんな唱え方するんだ?)




 ミリアの高らかな詠唱に、エリックはまともに眉を顰めたのであった。


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